故ラチェットスタンク

死霊のはらわた リターンズの故ラチェットスタンクのレビュー・感想・評価

死霊のはらわた リターンズ(2015年製作のドラマ)
3.8
『これこそルネサンスだ。』

死霊シリーズの狂気的な熱量を保ちながらも制御して、ドラマのプラットフォーム×ソフトリブートの座組みに物語性も担保している。
良い所取り所か現代解釈メジャーアップグレードデラックスverとして復活させているのが偉すぎる。凄い。

人体破壊大喜利はより激しく過激に繰り広げながらも不謹慎コントと明確で端的なプロット展開の詰め込みで毎話見せたいものをフルスロットルで畳み掛ける。

基本20〜30分のランタイムの選択も英断。気軽に観れるのに見せ物豊富なのは反則でしょう。

各エピソード「ここを一番見せたいんだ!」という場面における妥協のなさ。とりわけアクションシークエンスは素晴らしい。
ひとつ限定空間を設置してそこにキャラクターを放り込んで、何が起こりうるかを樹形図的発想で広げていくアクション。
「スパイダーマン」シリーズのライミ監督のアクションシークエンスの構成方法を想起する。(特に2の列車のとこ)
「常識から隔離されたインモラルな状況の中で何が起こるか」というテーマの場面が1番面白い。
特にカフェでアッシュが食い逃げを計画し始めるくだりは秀逸。
各アクション3〜4分で続けすぎない。アタマっからケツまで基本クリフハンガーなしで見せ切る。
「分かっていらっしゃる…」と唸る。
演出は足し算、構成は引き算のサービス精神。

とは言えども10エピソードでこの尺にしては割と長く感じた。
終盤の方はお馴染みの小屋で展開されるので新しさを感じ辛く、絵的にも似ている場面が続くのでキツい。
元から低予算のカバーのためでもある小屋設定だと思うので予算がある程度潤うドラマとしては損な設計に思わされる。

やたらめったらにルールがよくわからないアクション、死霊描写は顕在で正直飽きてしまうところはある。「頭部の破壊」の一点張りなのは工夫が欲しいが「んー………まあいいか笑」となる。憎たらしいキャラクターに囲まれているから寝落ちはしないギリギリのバランス。

ゴア表現はオリジナルシリーズほどのザラ付きはないが好み。エンタメでないと許されないありえないぐらいの過剰な血飛沫。不謹慎な破壊衝動を許してくれるのが、創作の役割だ。
そして何より「ちょっと気持ち悪いかな…」と思わせてくれる所まで飛んで行ってくれるので個人的には教育に良いと思う。

終盤のサマラ・ウィーヴィングは典型的が過ぎるというか「もう決定版だろ」な「スクリームガール」。何の意味もないのに最終エピソードでは死霊屋敷のディナーのフルコースを振る舞われるVIP級の特別待遇。
覚悟のシートベルトをかける前に徹底的に不条理のアクセルを踏まれてしまう。
筋の通っていない過剰な世の不条理を描いてきた『死霊のはらわた』の文脈には最も合致する人物設計。原作の本質的な部分へさりげなーく目配せするリスペクト。
正直主人公のキャラクターたちは好きになれるが平凡だな…とは感じていたので彼女が出ている所で「そうそう私の知ってる『死霊のはらわた』ってこんな感じだったな。」と思った。

「大事な人を傷つけないために突き放したり、一緒にいるために責任を放棄した行動を取る欠陥人間」を掘り下げるストーリーがあったのは良かったが、そこがやっぱりあまり好きではなかった…

もう色々と120%で振り切れすぎているのが原作の魅力だったので、屑だけどやや人情派なアッシュは観ていて中途半端に感じてしまう。
どう考えても"屑:人情=9:1"ぐらいの割合なのに「中途半端」なんて思わされるのは、「今」に迫られて狂気化していく原作と違って今作では「過去」と向き合って普通の人間にやや戻り始めているからなんだろうなとは思った。リターンズってそう言うことか。

ここについてはもうコンセプト、座組みの話で、言っても仕方ない無い物ねだりだからそれほど気にしてはいないです。

観終わってシーズン2にそのまま雪崩れ込んでしまった。
Back in Blackで締める所まで憎たらしくて賢い計算高さ。素晴らしい。

追伸:プロット的には2の続編なんだけど3のリファレンスが多くて「君も忘れてないよー!」としっかりフォローを飛ばしてくれる視線の広さにやられる。本当に愛のある製作陣だ。