パワードケムラー

絶狼<ZERO>-DRAGON BLOOD-のパワードケムラーのネタバレレビュー・内容・結末

絶狼<ZERO>-DRAGON BLOOD-(2017年製作のドラマ)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

 日本では数少ない真剣に真正面からドラゴンに向き合った実写作品であり、ドラゴンマニアや幻獣マニア、怪獣オタクは是非観て欲しい一作である。オムニバス・ジャパンのCGと雨宮慶太監督のデザインの組み合わせはそれほどまでに素晴らしく、竜が天に向かって一筋の炎を噴く場面の美しさには言葉を失った。火山のような迫力と、ドラゴンという生き物には世界を滅ぼすだけの力があることを如実に表している。
 最後の心滅竜絶狼と尋海アリスを取り込んで成体となったループの戦いは、雨宮慶太監督の言う通り「怪獣映画そのもの」である。
 ここまで長々と竜と絶狼の戦いとそこで用いられたVFXについて書いたが、本作の魅力はそれだけでは無い。エデルとアリスの抱える「自分は何者なのか、自分の生きる世界はここであっているのか」というアイデンティティの葛藤、一般人のような幸せを願いながらも守りし者としての役割に追われる鈴邑零の苦悩、アリスと「白い騎士」の立場から注がれる零の愛、世界のためと信じて命を散らした者たちの悲哀と復讐......人物描写も申し分ない。
 また牙狼シリーズといえば怪人ポジションであるホラーたちも魅力だが、本作では作品コンセプトであるルイス・キャロル著『不思議の国のアリス』をもとにされた歪さとグロテスクさ、そしてそのどこかに童話っぽさを持った雨宮慶太監督イズム溢れるホラー達を見ることができる。
 特におすすめなのは第1話に登場した時計うさぎがモチーフのラビリアと第8話に登場するチェシャ猫がモチーフのライラ。
 前者はそのシルクハットとタキシードを着込んだウサギのデザインは一見すると可愛らしいが、見れば見るほど心の奥の陰我を刺激するような恐ろしさを持っている。
 一方で後者は登場時の演出、トランプの舞う空間など『不思議の国のアリス』らしさ満載だが、雨宮慶太監督らの手によりチェシャ猫の狂気っぷりは天井知らずであり、その芋虫を思わせる胴体と幸せな幻覚で頭を惚けさせて食う姿はまさしくルイス・キャロルの描いた退廃的で水タバコを好む芋虫の姿である。
 美麗なCGで描かれるドラゴン同士の死闘、世界的な童話の中に存在する歪さを剥き出しにする雨宮慶太監督ら牙狼シリーズスタッフのセンス、そして人物たちの抱える心の闇......ある意味で日本特撮の最高峰に近づいた作品であるといっても過言では無いかもしれない。
 最後に強い言葉を使うが、この作品を見ずしてドラゴン好き、特撮好きを語るのは早計だと言えよう。本当に大傑作、その言葉に尽きる作品だ。