かりんとう

私のトナカイちゃんのかりんとうのレビュー・感想・評価

私のトナカイちゃん(2024年製作のドラマ)
3.7
脱落したらもったいない!
4話以降からとんでもない方向に物語が進んでいく。

正直最初の2話で脱落しそうだった。
主人公ドニーの煮えきらない態度にとにかくイライラする。
だいたい毎日無銭飲食を繰り返してカウンターに張り付く肥満体女なんて、きっぱりとお断りするか警察に突き出せば済むのだ。
しかし主人公が本当にそうしたらこのドラマは15分で終了するし、そもそもドラマとして成立しない。

予備知識無しで観ていると、このままストーカーの呪縛にがんじがらめにされた主人公が如何にしてその窮地を脱して日常を取り戻すのか、というところがメインテーマなのではないかと信じてしまうが、実はそうじゃない。
そんな「ミザリー」的なストーリーではないので、これから観ようと思っている方でそっち方面に期待されている方には注意を促したい。
本作では主人公が監禁されることもなければ、MacBookでストーカー女性を滅多打ちにしたりもしない。

物語が意外な展開を見せるのは4話以降。
なぜドニーがこんなに優柔不断で、恋人に被害が及んでも警察に駆け込まず、視聴者をイライラさせてきたのかという理由がわかる。
絶対的なトラウマを齎した過去。自尊心や自己肯定感を踏みにじられてボロボロになりながらも、なんとかコメディアンとして身を立てようと必死になる姿は実に痛々しい。
気の毒だが、彼の成功を信じているものは本人を含めてこの世界のどこにもいないのだ。
しかし彼は他の人生を選択できるほどの余力も残っていない。
そんな時に「自分を理想の自分」として恍惚とした瞳で見てくれる人がいたら…
人生に挫折した経験がある人ならば、彼の絶望や焦燥や虚無感が少なからず理解できるはずだ。
人の心が持つ感情の境界線は、実はとても曖昧なのかもしれない。
愛情、執着、憎悪、嫌悪
もしかしたら、彼らこそ出会うべくして出会った運命の相手なのかも?!