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メディア王~華麗なる一族~ シーズン4の傘籤のネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

「資本主義国家」であるにも関わらず「家族至上主義」でもあるアメリカの歪さをブラックジョークとして描き、そこに囚われた兄弟たちの愛憎劇、これにて終着点です。いやー、面白かったなあ。シーズン4はこれまでのお話で積み上げてきたものを全て使って刻一刻と変化していく人々の相関図とビジネスの状況をたっぷり皮肉を込めて下品に、格式高く、情熱的に、馬鹿馬鹿しく、愛を持って魅せてくれました。

最終的にトムが継承することになったのは予想外だったけど、でも終わってみるとすごい納得感もあるなあ。常にローガンの様子をうかがい、時勢を見ながら適応してきたわけだし、人を見る目があるのは確か。自分で自分を売り込むことにも長けているし、そりゃそうなるか。ドラマ上では三兄弟の目線から見た「トム」が描かれていたため軽薄でポンコツに見えていたけど、勝ち馬に乗る才能と、常に冷静でいられるという点で言えばトムは間違いない。
っていうか三兄弟はみんな欠点が多すぎるんだよなあ。そこも含めて人間味があって好きなんだけど。仕事に私情を持ち込みすぎだし、庶民的な目線が欠如している上、父親の幻影に囚われているせいで肝心なところで空中分解してしまう。

個人的にはこのドラマ「人はそう簡単に変わらない」ということを描いているのかな、と思いながら観ていました。ケンダルは強烈な体験をして変わるチャンスはあったけど、「父親のように」あるいは「父親とは違うように」ということを意識し過ぎていて、そのせいで何もかも上手くいかない。そのくせ父親の悪しき男性性みたいなところを変に引き継いじゃったせいで、最終的に時代にそぐわない言動ばかりになってしまい、より一層孤独な最後になっちゃいましたね。
シヴが最後に考えを変えた理由はいくつかあるだろうけど、やっぱり台詞通り「ケンダルには無理」だと感じたのが一番の理由でしょう。そして彼女自身も自分の限界(というか状況の限界か)を悟ったようにも見えたし、最後の絶望感はどちらかというとケンダルよりシヴのがひどく見えたな。
ローマンは良かったですね。いや状況だけ見たらぜんぜんよく無いんですが、地位とか財産以外で言えば、このドラマで一番何かを得たのは彼だと思います。自分たちのことを「クソだ」という彼はようやくローガンという呪縛から解き放たれたんだろうなあと感じました。

白人の男性が新CEOとなり、美味しいところは海外の企業に全部持って行かれ、共和党のファシストが新大統領として誕生する。その人間模様や状況設定は、『ゴッドファーザー』を意識せざるえない部分が多々あり、それがゆえに旧来の家族愛や兄弟愛や夫婦愛といったものを徹底的に破壊する方向に舵を切る脚本からは、アメリカに根付くそういった概念の斜陽を描いているように見えました。もちろん一種の皮肉としてね。
練り上げられた脚本と、俳優たちのすばらしい演技(マジでみんな演技がすごかった)、印象的なカメラワークと衣装や舞台美術。どれも一流の出来であり、「ドラマシリーズ」というものの面白さを再確認させられる作品でした。うむむ、個人的な好みで言えば今年のドラマ作品で1番は『ラスアス』なんだけど、それと並ぶくらい完成度も満足度も高い作品だったな。
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