めしいらず

離婚弁護士のめしいらずのレビュー・感想・評価

離婚弁護士(2004年製作のドラマ)
4.2
大きな企業案件を扱うばりばりの超エリート渉外弁護士の主人公が、事務所独立騒動で出し抜かれ、落ちこぼれの集まりの新事務所で、離婚などの小さくて地味な案件を嫌々扱ううち、市井の人々の人生の悲しみや遣り場ない憤りに触れ、声にならない彼らの声に耳を傾けられる人情派弁護士になっていく。綺麗でお洒落であることを、不自由ない豊かさを、後ろ指指されぬ人間性を追い求めることが幸福な人生を約束するのでは実はなくて、様々に足りていない部分を様々に足りていない者同士が補い合う関係を持っていることの方がより人生に幸せを見つけ易いのではないかと思わせてくれて心地よい。時に心の中の悪しき部分に囚われ過ちを犯したり、思慮が足りなくて選択を間違えたり、他人の押しの強さに唯々諾々流されたりもするけれど、弱い立場の者、間違えてしまった者に、凶器のような言葉を投げつけるのではなくて、そっと背に手を回し心を寄せるような人間としてのあり方の美しさに打たれる。この頃より殺伐とした今だから優しさがより沁みてくる。見てくれの印象や社会的地位や実績で人の価値を測る世情であるけれど、立派にはなれなかった人の人生も価値は等しいのだ。関係を解消された風俗嬢が愛人に慰謝料を請求する第二話、親権を巡り係争する離婚夫婦の間で息子が揺れる第三話、18歳と16歳の夫婦が不動産トラブルに巻き込まれる第四話、長年の内縁関係である妻が突然夫に結婚を要求し訴える第七話、娘を心配する余りにすれ違ってしまう父親の悲哀の第八話が特にいい。色眼鏡で見られがちな彼らが訴訟に至った理由が判明して見えていた光景が反転し、彼らが抱えてきた遣る瀬なさがリアルに胸に迫ってきて泣かせる。特に二話の粋な決着と、三話と八話の父親像が堪らない。安っぽい勧善懲悪風ドラマとは別次元にある。主人公天海祐希に方向性を示唆しそれとなく導いていくパラリーガル津川雅彦の風情が絶品。コメディエンヌとしても秀でた天海とミムラもさすが。ノラ・ジョーンズの挿入歌も印象深い。テレビドラマには疎い方だけれど、本作はもっとも好きなものの一つとして記憶している。ただ、毎回ある呑み屋の場面に弁護士の守秘義務とは?と思わぬでもない。
再鑑賞。
めしいらず

めしいらず