Larx0517

刑事ヴァランダー ザ・ファイナルのLarx0517のレビュー・感想・評価

4.1
いきなり南アフリカ。
世界中どこに行っても、歓迎されない男ヴァランダー。
ファイルシーズン。

事件が解決した後にも、残るやるせなさの余韻は健在。
事件が解決しても、心のひっかき傷はしこりとなって消えることはない。

特にすごいトリックやどんでん返しがある訳でもない。
解決するのも、糖尿病を患ったもはや若くない男。
さらにシーズン1の認知症の父のようになるかもしれない、人として崩壊するという、静かに忍び寄りつきまとう恐怖。
シーズンを重ねるごとに周囲の登場人物の影が薄くなり、ヴァランダーというひとりの男に集約されてゆく。
みっともない部分をも含んだ、等身大で赤裸々な生き様を見せる。

全シーズンを通じて多用される、俯瞰して、「神の視点」からの大自然の中を走る車のカット。
たいていが最初は車を追いながらも、視線は大自然に向けられ、車は視界の外に消える。
雄大な美しさと同時に、人などちっぽけで、車という人の文明の鎧に守られても、巨大な自然には簡単に飲み込まれてしまう、無力感がこの作品ではなぜか湧いてくる。
そしてその車が向かう先には、少なくとも手放して喜べる状況が待っているようには思えない。
それでも、進む。
それでも、老いても、人間性をむしばまれても、人は生きてゆく。

深い思索の森に迷い込んだ気持ちにさせるのは、北欧が舞台という訳ではない。
それがこの作品の深い魅力なのだろう。
人生に簡単で分かりやすい「解決」などない。

完結したが、この作品群が残した、ひっかき傷は、人生の折々に、フラッシュバックのように浮かび上がってくるのだろう。
観た瞬間、インスタントに楽しんですぐに忘れてしまうのではなく、自分の深いところにとどまり、自分の礎となる作品に出会える。
それこそ僥倖。
Larx0517

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