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TRUST/トラスト ゲティ家のスキャンダルのmayaのレビュー・感想・評価

5.0
親族経営の家族の機能不全さが様々な角度から描かれる。
ゲティ家とマフィアが写し鏡になっているの、素晴らしい構造。1世とボスの交渉シーンで、ボスが「息子にチャンスを与えろ」というが、与えなかった結果がゲティの息子たち、与えた結果がボスの最期であるあたり、「機能不全家族は父殺しか、さもなくば自死するしかない」という逃げ場のなさがエグい。レオナルドが3世や息子に対して「まともな父親」の反応をするから、「そうか、これがまともなお父さんの反応なんだ」と我にかえる。
色々最高ポイントはあるが、個人的にはマフィアパートが最高の「父殺し」の物語で好き。
あれだけ後継問題で失望しまくったゲティ一世の精神を最も強く引き継ぎ、次世代のキングになったのが、まさかの彼。世界最高の金持ちから雑で無謀な犯罪手段で金をかすり取った貧者が、しかしその冷酷さと狡猾さでその金を正しく使い、今に至るイタリア最大の金持ち(史実ではおそらくンドランゲタファミリーのこと)になる。まさしく事業家。ダニエル書の引用でゲティからプリモへカットが切り替わり、そこではじめて「プリモ(1世)」の意味が分かる。最終回として完璧すぎる。10話で突然それまで主軸だった3世の結末が素っ気なく書かれるのも、ピントをずっと3世に合わせて見てきた側からすると、突然焦点を無理やり変えられて「これ、最初からプリモに焦点当てて見たら、この男こそゲティ1世じゃん」となるので、見事に2周目inです。
確かに日本語タイトルの「皮肉な」結末でもあるんだけど、英語だと単純に「結末」となっているように、ただ皮肉というにはあまりにもゾクゾクする要素がある。
あと、ゴッドファーザーやその他イタリアマフィアを扱った作品と比較して、かなりリアルなマフィア描写だと思う。マフィア単体が強いのではなく、「協力を仰いだ以上、見返りを納めなければ村人からリンチに会う」という仕組みは、イタリアという貧困国家の田舎の閉鎖的な社会、極めて経済的な仕組みを描いている。「のどかな田舎町」なんてものは幻想なのが見て取れて、大好きなイタリア描写。
ところで、実際の誘拐犯にあたるンドランゲタ、もとは牛飼いだったそうで、聖書が多く引用される本作で、聖書で最も貧しい者達にあたる「羊飼い」が麻薬をつかってのし上がるの、めちゃくちゃ胸熱ですね。貧者は清く正しく王に仕えたりしないのだ。
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