故ラチェットスタンク

ブレイキング・バッド ファイナル・シーズンの故ラチェットスタンクのレビュー・感想・評価

5.0
 完 璧 。

6年間も続いておいて綺麗にお話を畳んでしまい、TVドラマ全体のハードルを大きく上げてしまった最高に罪深いシリーズ

まだ観てないのなら読むのは自己責任

集大成となる今シーズン、遂に立場的に最も避けたかった相手とのフェイス・オフかと思いきや、転がって転がってとんでもない方向に飛んでいってしまう。
他人ではなく今一度自身の人生とフェイス・オフをすることになるウォルターであった。

積み上げたものが一瞬で壊れてしまう儚さと本当の居場所を持てなかった男の空虚な心が美しいアルバカーキの荒野とともに映し出される。

シーズンの前半部分は正に今までのキャラクターの関係を幾重にも絡ませた正に集大成
構成、クロスカット、スリルの演出諸々のクライムドラマとしての基礎的な要素は綺麗に抑えつつ、善悪入り乱れた興味深いキャラクター作りは最高潮を迎え、誰のことも応援も批判もできない絶妙なバランスを作り出す。

そんな劇的な集大成を一瞬にして吹き飛ばすEP06「オジマンディアス」間違えなくベストEPと言って良いだろう。
ここまで来ておいて劇的展開の王道をひっくり返す。

期待したような最終決戦ではなく、肩透かしと言ってしまっても良いかもしれない。
しかし同時に必要な展開でもあった。
シーズン4の熱量は消え去り、残るのは喪失感と冷たい現実のみ

「グッドフェローズ」「カジノ」→「アイリッシュマン」とスコセッシが数十年かけてやった"有害な父性の限界""力の儚さ"をこの時点で確立させていたことに驚く限り

最後の力を振り絞るウォルター
犯罪王としての面と普通の男としての面が不安定に共存している。
このドラマの映画感と現実感の共存する雰囲気とも似通ったキャラクターアーク

ファイナルEP「フェリーナ」でも派手さを出し過ぎず、どのシーンの演出も非常に味気なく、尾を引くのは空虚な感覚だけであった。

EDでは実質的に誰も救われていないはずなのに何故か清々しく解放的な終わり方だった。

心の居場所に気づいたウォルター
心を解放したピンクマン
2人の最後の対面は互いの感情が複雑すぎて筆舌に尽くせない。
恨み、感謝、怒り、憎しみ、寂しさ様々な感情が渦巻きあっていた。
あの場面をしっかりと言葉に出来る人は一人としていないだろう。
クランストンとポールの名演、そして61ものエピソードが作り出したドラマ史に残る名シーンであった。

全てが繋がり、全てが壊れていく。
消え様まで美しい燃焼っぷりに脱帽

何の無駄もない。6つものシーズンを一つに繋げた最高のフィナーレ

最も素晴らしく、最も好きなドラマ
大傑作です。