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ブラック・ミラー シーズン3の傘籤のレビュー・感想・評価

ブラック・ミラー シーズン3(2013年製作のドラマ)
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各話安定して面白い。これまでと同じく風刺っぽい話が多いが、終わらせ方に関しては後味が悪いものだけでなく、前向きでハッピーなものも用意したりとバリエーションを増やしている。映像も俳優もレベルが高く、アイデア自体は凡庸だったとしても「絵」として面白いので満足度が高い。藤子・F・不二雄のSF短編が好きなのでこういうのを見てるとニコニコしちゃいますね。
以下は各話の感想を簡単に。

1話 ランク社会
SNSでの評価が実社会での評価に直結する社会。つまりすべての行動が点数方式になっているという設定。もはや結構見かける、ありがちな設定ではある。でも途中からこの話はロードムービーに切りかわる。かつて自分をいじめていた女に結婚式のスピーチのため招かれ、そこに向かうというお話に。最後はパンクです。ディストピアからの解放です。ちょっと百合入ってます。結構好き。やっぱSNSってそれ自体がディストピアだわ。

2話 拡張現実ゲーム
旅行中金欠になった男がMR(複合現実)ゲームのテスターになることでお金を稼ごうとしたら、現実の認識に影響を受けてひどいことになっちゃうという話。最終的に自分自身が誰か、何が現実なのかもわからなくなるってオチはありがちではあるもののやっぱり観ていて楽しい。ゲーム会社はサイトウ・ゲーム社とという日本の企業でした。日本人からしたら平凡な名前だなあ。

3話 秘密
現代のテクノロジーにおいて最も身近なものといえば、パソコンおよびスマートフォン。モニターのカメラによって自宅で行った恥ずかしい行動を撮影された少年は、スマートフォンに届く指示に従わざるをえなくなる。胃がキリキリするなーこの話。たぶんこのドラマを観てる人で”自分事”と考えない人なんていないんじゃないかな。最後はみーんな不幸に。マジでみんな不幸になるので、逆に何を伝えたかったのかよくわからない。

4話 サン・ジュニペロ
ここにきてすごーく感動的なSFです。ブラックユーモアや風刺だらけの性格の悪いSFばかりでしたが、それらはこの作品を光らせるためにあったんじゃないかと思うほど。
始まりは1987年、クラブで出会ったふたりの女性ヨーキーとケリーは互いに惹かれ合っていく……。しかしケリーは姿を消し、今度は舞台を90年代に移し、再び彼女たちは出会う。
まあつまりこれは『VRおじさんの初恋』と同じ構造のお話です。現実の世界では余命の短い二人の女性がバーチャルな空間で若い姿のまま出会い、現実では知り得なかった人生を謳歌する。そこには同性愛者婚や安楽死を厳しく取り締まる世の中に対する問題意識も読み取れる。生命とは「誰」のものなのか。その命を「どう」使うのか。彼女たちの胸をこがす愛は確かにそこに存在し、新たな価値観を通してあるコミュニティにコミットすることでしあわせを見つける物語。SFが持つ「寛容さ」が、この短編には美しく理想的なかたちで確かにある。名編です。

5話 虫けら掃討作戦
近未来ミリタリーSFですな。『スターシップ・トゥルーパーズ』ほどバカバカしくはなく、『オール・ユー・ニード・イズ・キル』のような気持ちいいエンタメ感もない。いわば戦争や兵士のPTSD問題についてSFという装置を使って表現した『メタルギアソリッド』『虐殺器官』等に近いナイーブな方向性の作品。敵を敵として認識することで銃の発砲率を上げ、より効率的に殺すためのテクノロジー。おぞましく、切実な未来の戦争。オチの悲しさも含め好みでした。

6話 殺意の追跡
SNSで批判をあびたジャーナリストが殺されるところに端を発し、刑事たちが犯人を追うサスペンス風近未来SF。1時間30分と長尺で見応えあります。裁判シーンもあるので裁判フェチの方、あるいは聴聞フェチの方にはおすすめです。あと途中でヒッチコックの『鳥』ならぬ『虫』が始まります。まんま言っちゃうと虫が大量に出てくるシーンがあるので苦手な人は注意しましょう。SNSの誹謗中傷と過熱する集合意識。実際いま起こってもおかしくないレベルの話なので、かなり身近な出来事のようにも感じられた。ネットの悪しき部分を追求した作品で、映画並みに気合い入ってます。すげえ。
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