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ブラック・ミラー シーズン6のmegurosのネタバレレビュー・内容・結末

ブラック・ミラー シーズン6(2023年製作のドラマ)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

シーズン完成度は過去最高水準。テクノロジーと世界状況の現在を皮肉たっぷりに映す、正に今見るべき”ブラックミラー”に仕上がっている。

#1 JOAN IS AWFULは、役員と社員の調整を受け持つ中間管理職/ミドルマンのジョーンが主人公。収入の安定を考えるとささやかな夢であるコーヒーショップ経営も今はまだ遠く、組織の歯車として生きているうちに”自分の人生の主役だという感じがしない”と思っているジョーンは我々の写し鏡のような存在。

Netflixのような動画配信サービス”ストリームベリー”は、量子コンピュータ、広告トラッキング技術、そして生成AIによって、利用規約に承諾した8億人のユーザーの生活及び多元的宇宙をモデル化しており、自動編集AIや俳優のフォトリアル3Dモデル(デジタル肖像)、ディープフェイク技術を駆使してコンテンツを一瞬で自動生成する仕組みを構築している。その仕組みによって、ジョーンの”ひどい(Awfulな)”一面がコンテンツとなって毎夜配信されるわけだが、awesomeよりawfulの方が反応が良いというデータ等にしても、有名芸能人の不倫騒動で沸く今だからこそより痛烈な風刺として見える。皆、”誰かに怒鳴りたい”時代なのだろう。

展開としてはまず、自身の1日が番組になっていることにジョーンは驚き、次に番組の中では同じようにジョーン役のサルマハエックが驚くという入れ子構造が導入され、ラストのツイストではジョーン自身が仮想世界の第一階層で”原作”の存在ではないということが明らかになる。1点不満があるとすれば、その第一階層におけるサルマハエックの役柄が原作ではアニー・マーフィーになっているところ。第一階層でジョーン役を演じているアニー・マーフィーであるのだから、ここは役者ではない市井の人にして欲しかった。

マイケルセラ、ケイトブランシェットがカメオ的に出演。サルマハエックのコメディエンヌとしての活躍も楽しい(サルマ”ファッキン”ハエックがキルビル衣装で登場)。敬虔なカソリック家庭に育てられたサルマハエックが教会で排便、さらにそれ以上のこともOKとする規約の網羅性・詳細性が笑える。規約はしっかり読まなきゃですね(読めない)。機関車トーマスのリブートにジョージクルーニーが出演するそうです。


#2 Loch Henryは、風光明媚なヘンリー湖が舞台。観光客がいなくなった理由である過去の殺人事件の経緯をドキュメンタリー作品としてまとめているうちに、自分の両親が真犯人であることが分かり母親は自殺、恋人は命を落としてしまう。映像作品と観光地のタイアップ、さらには自身の生活をコンテンツにするYoutuberに対する皮肉になっているようにも思える。こちらの作品もストリームベリーで配信。

ゲームオブスローンズでポドリックを演じたダニエル・ポートマンが出演。過去のビデオテープに犯行の証拠が残っていることが分かった直後、映像の中で嬉々として人を殺していたその人と2人きりでシェパーズパイは食べたくない。


#3 Beyond the seaは宇宙が舞台。宇宙での睡眠中に自分の”レプリカ”であるそっくりアンドロイドにジャックインして二重生活を送る宇宙飛行士の2人を描く。

ジョシュハートネットの家族が半サイボーグの過激派カルトヒッピー(マンソンファミリー)に惨殺され、レプリカも消失してしまう。本人が地球にいないとレプリカは作り直せないが、宇宙でのミッションは2年終わって残りあと4年。全てを失った相棒が超まずそうな宇宙食(ふつうはもっと見た目もおいしそうに作るはず)を食べながら、生きる気力を失っていくのを見かねて、自分のレプリカを貸すことにするのだが...という話で、ここからはアバター倫理に関わってくる。

地球の奥さんが「人形の谷間」という不倫小説を読んでるような欲求不満丸出しで、その役をケイトマーラが演じるという配役の妙(ハウスオブカーズの役柄イメージぴったり、しかしこの人は美人なのでしょうか...)。にしても、人の奥さんに触るのは良くないし、人の奥さんの裸体を描いてはダメだと思うが、それでも全てを失った人に言い過ぎは良くないよね...ということで、命を預けた船外作業はさすがに自殺行為。


#4はチェコが物語のスタートとなる狼男の女性版ストーリー。パパラッチの醜悪な生態を映しているようにも見えるが、自殺の瞬間をさえカメラで収めんとする究極の姿まで追い込んで描く。冒頭のシーンでは「メディア王」シーズン1のケンダルを思い出した。マジックマッシュルームを喰らって運転は危ないので絶対ダメ。


#5は、恐らく70年代後半のイギリスが舞台。極右政党であるイギリス国民戦線が移民排斥を掲げ、一般市民はインド系/イスラム系の区別もまだよく分かっていない。今はインド系のスサクが首相だが、Brexitを実現した現在のイギリスの相似形をここに描き出している。

トニーブレアをモデルとした人物なのだろうか(あるいはトランプや欧州各国極右リーダーの、はたまた日本にも似たような人たちがわらわらいるが...)、極右公約は”あからさますぎて無作法”だとする候補者スマートは、極右思想を柔らかな物腰に隠している所があり、政権を握ってからは”Taking Britain Back”を掲げ、ショック・ドクトリンで施策を断行していく。悪魔は自分が悪魔だと名乗り、生贄3人が必要だと要求もはっきり明示してくるが、この世の中の本当の悪は真意も本性も巧妙に隠しているということだろう。

“未来永劫の無の中で生きる”という悪魔の末路は孤独省まで作っているイギリス移民社会を象徴するようにも思うし、ラストの展開は核の脅威が迫っている今こそタイムリーだとも思うし、政治家の暗殺という点においては、この国においてこそ真剣に見られるべき。
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