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ブラック・ミラー シーズン6のhasisiのネタバレレビュー・内容・結末

ブラック・ミラー シーズン6(2023年製作のドラマ)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

【概要からアラスジへ】
2023年にNetflixで公開されたSFアンソロジーシリーズ。

シーズン6なので参入を諦めていたのですが、どこからでも楽しめると聞いて。
イギリス版『世にも奇妙な物語』
最新のテクノロジーの採用と、社会や政治批判が主なテーマだとか。
4年ぶりの新作では時代のニーズへの対応という形で、様々な挑戦が行われているらしい。

制作総指揮は、チャーリー・ブルッカー。1971年生まれ。イギリス出身の男性。
社会風刺の専門家で、元漫画家。
全話の脚本も担当。EP.05以外は1人で書いています。
(パワフル)

同じく彼が担当している『カンク・オン・アース 〜フィロミナ・カンクとお勉強〜』のレビューも過去に書いたので、よろしければ。

※アラスジと感想を最後まで。その後に振り返りを。⚠️

📼〈EP.01 ジョーンはひどい人〉🖥️🍔
住宅地の一軒家。ジョーンは婚約中のクリシュと2人暮らし。
車を運転して大手テック企業・ソニクルに出社。
役員会からの命令で、無用になった部門から社員を1人解雇する仲介役を。
休憩時間には元カレのマックとメッセージをやり取り。
退社後はセラピストのオフィスへ。クリシュの料理の味気なさと刺激のない性生活を愚痴る。元カレとの刺激が強すぎる関係から逃れるように彼に癒しを求めたけど、流れに身を任せただけ。
「この物語の主人公って感じがしない」

出張中のマックとホテルのバーで再会。髪型を褒めてくれる。サンノゼに来るように誘われてキス。思い留まって帰宅してクリシュとキス。
彼が作った薄味の夕食を食べながら一緒にストリームサービスStreamberryを眺める。
新作ドラマ「ジョーンはひどい人」が来ていて、サルマ・ハエックが演じる主人公が自分にそっくりでギョッとする。

ドラマはジョーンの1日をダイジェストで再現したもので、マックとの浮気をクリッシュに知られてしまう。しかも本人より冷徹で大胆に脚色されて。
ドラマ内のドラマでは、ケイト・ブランシェットがジョーンを演じていた。
クリシュが家を出た場面で1話は終了。

知り合いすべてにドラマを観られた翌日。出社すると、解雇の情報を漏洩させた契約違反で解雇に。ドラマの評判は上々でプロも称賛。弁護士に相談するが、Streamberryに入会する際に利用規約に同意しているので訴えられない。
サルマのなりすましに注目するが、デジタル肖像であってCG。
ドラマは普段の発言と行動履歴から自動生成されるので、カメラで監視する必要もない。
ノイローゼになりそうで、ドラマに感化されたように狂暴化してゆくジョーン。

ホテル。マックの部屋を訪ねると3話目を視聴中。セックスで逃避したいが、ドラマ化が脳裏を過ってマックは勃起できない。
翌日の自宅。すべてを失ってプッツンしたジョーンは攻勢に出る。ハンバーガーを山盛り食べて下剤をガブ飲み。
ツインテールにチアガール姿に変身。教会で開かれていた見知らぬ結婚式に乗り込んで脱糞テロ。嗚咽を漏らして逃げまどう人々。晴れ舞台を台無しにされた新婦が悲鳴をあげた。
ジョーンは逮捕されて、弁護士が保釈金を払って帰宅。

カトリックのサルマは配信された自分の脱糞姿に激怒するが、肖像権契約で訴えられない。無能な弁護士を解雇して、ジョーンの家に乗り込んだ。
2人は被害者同士で意気投合。サルマがStreamberryの本社へ。トイレを借りると偽って無事社内へ。裏口からジョーンを呼び込み、最上階を目指す。
CEOのモナ・ジャヴァディの部屋と、研究開発の部署があり、中枢には量子コンピュータ。通常は数ヶ月かかるドラマ撮影も一瞬で自動生成。8億人の登録者全員のドラマを制作予定で、共感値は最大化されるはず。

2人は捕まえた管理者から実在するジョーンの映像を見せられ、ジョーンは自分が女優アニー・マーフィを取り込んだCGで思考はAI。ここが仮想世界だったと知る。
ロッカーから斧を入手。駆けつけたCEOが訴えた。
「それを壊せば、仮想世界の全員が死ぬ!」
自分も消滅すると知ってサルマも止めようとするがアニーは、
「決めるのはジョーンよ」と斧を振り下ろした。

現実世界のジョーンは逮捕されたけど笑顔だった。
それからしばらくの時が過ぎ。足にGPSをつけられて自宅軟禁。小さな会社に勤めてスタッフとは血の通った付き合いをしている。今はこの物語の主人公だと思えていた。
ジョーンが務めるコーヒーショップにGPSをつけられたアニーが訪ねてきて、2人は笑顔で挨拶。いつものカスタマイズを注文した。

🪓個人データを収集されて、Netflixで配信されてしまうダークコメディ。
生成AIの進歩によって2、3年で現実になりそうで怖い。
なんだけど、脚本家のプライベートでもある。
彼氏と一緒にテレビを観ていると、実際の恋愛をモデルにしているから「創作よ」と誤魔化している。
自分たちの業界の話を書かせると面白くなる法則。

『アラビアンナイト 三千年の願い』で似たような記事を書いたが、
俳優もデジタル化されて後世に残れば喜ぶだろう、と楽天的に捉えていたが、作り手次第で殺し屋にも娼婦にもできると考えれば恐ろしい。
劇中では大手が動画を配信しているが、自宅のPCからは指示を出すだけなので個人で作れる。

これがまだ生成AIが現在の段階まで進歩する以前に作られたのが鮮明。業界の危機感が伝わってくる。
最後は暴動落ち。体制が人権を無視した時は、いつでも武器を持って立ちあがる。

📼〈EP.02 ヘンリー湖〉🏞️📹
スコットランドの山深き片田舎。
ドキュメンタリー監督のデイヴィスは、パートナーのピアを連れて母ジャネットが暮らす実家に帰省。
酒場を経営する幼馴染スチュアートも合流して、過去の連続殺人の掘り起こし。
当時の資料をデジタル化。インタビューと、風景を撮影して素材を集めてゆく。
警察官だった夫の死の原因であり、地元を過疎化させた事件なのでジャネットも協力的だ。

だが、ピアはジャネットの古いVHSのコレクションから、夫婦が犯人イアンを手下に、観光客を捕まえて殺人を楽しんでいた黒幕だと知ってしまう。
逃亡したピアは川で事故死。ジャネットは自殺。ドキュメンタリーは事件の真相と、大量の拷問動画によって強化されて大ヒット。
ヘンリー湖には観光客が押し寄せ。かつての賑わいを取り戻したのだった。

🎭序盤、中盤でがっかりさせて、終盤に真相、当時の動画、伏線回収で刺激を与える怒涛の展開。インパクトはあるが、調査する面白さには欠ける。
若い頃の両親が実は『ホステル』だった。
まじめな両親に他人には言えない過去があるなんて、ぞくぞくする。

📼〈EP.03 ビヨンド・ザ・シー〉🏡👨🏻‍🚀
1969年。化学が発展した別の世界。
宇宙ステーションで働くクリフとデビッドは、仕事が終わるとベッドに横になり、記憶を地上に飛ばす。
記憶は彼らの肉体を模したレプリカの中に入り、家族と平和に暮らしていた。

ある晩、デビッドの家をヒッピー風の若者4人組みが襲来。彼らは過激な機械人間反対主義者で、レプリカを破壊するだけでなく、妻と子供2人を殺害してしまう。
賊は逮捕されたが、宇宙で1人過ごす時間が増えたデビッドは精神を病んで自殺未遂。
クリフの妻ラナの提案で彼のレプリカを貸して気晴らしさせることに。

クリフの家は人里離れた自然豊かな場所に建っていた。デビッドは他人の体に戸惑いながら、ラナの案内で森の中へ。彼女の腕の中で泣いた。
デビッドは生きる力を取り戻し、週に1度、1時間だけレプリカを借りて、趣味である絵を描いて時間を過ごす。
やがてデビッドはラナに恋して、街に連れ出すように。夫婦と勘違いされて話を合わせる。

クリフの幼い1人息子ヘンリーが感づいて絵を汚す。デビッドはラナを求めるが拒絶され、ステーションでは妄想で描いたラナの裸の絵をクリフに発見されて殴られる。
幸せな家庭を持つクリフが羨ましかった。

地上で休暇中だったクリフは緊急の呼び出しで宇宙へ。冷却管の損傷を修理するために宇宙服を着てステーションの外に出るが、損傷は見当たらない。
嫌な予感がして急いで地上に戻ると自宅は血の海だった。

🎨独身なので感情移入しやすい。デビッドは妻子を亡くしたばかりなので、他人の幸せは余計に辛いだろう。
ヒッピーが凶悪化してく過程は『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の際に町山さんが解説してくれたので、すんなり楽しめた。
仕事もせずに町をうろうろしていれば、幸せそうな金持ち家族に嫉妬するのも自然な流れ。

受け入れたり、拒絶したり。優柔不断なラナの反応に葛藤が感じられてリアルだった。
60年代でゆっくり時間が過ぎる上に、嫉妬の毒が感染するバットエンドだが。この時空が歪むような嫌な感覚は最近の映画では味わえない。

📼〈EP.04 メイジー・デイ〉🌕📸
チェコ。ボーはパパラッチとして働いている。俳優の不倫現場の撮影が原因で被写体が自殺。仕事を休業するが、依頼がくる。
映画の撮影中に行方不明になった女優メイジーを写真に撮れば3万ドルの報酬で心が動く。
尾行と情報収集。麻薬の更生施設でメイジーを発見するが突如、狼人間に変身。
食い殺されてゆく周辺住人。ボーの銃撃で変身が解け「殺して」と願われるが、銃を渡して自殺をうながした。その姿を写真に収め、ボーはパパラッチとして復帰したのだった。

📼〈EP.05 デーモン79〉😈👞
1979年。イングランド北部。1人暮らしのニーダはデパートの靴売り場に務めているインド系移民。
同僚のヴィッキーには子分のように扱われ、街頭演説中の保守党の政治家からは白い目で見られる窮屈な日々。彼らを妄想の中で殺害するのがニーダの密かな楽しみに。
ある日。地下倉庫で小さな札を入手。血の契約で悪魔ガープを呼び出してしまう。
ガープはニーダの好きなボーカルグループ、ボニーMのJボビーに変身して、
「メーデーまでの3日間の内に3人殺害しないと、世界は地獄の業火で焼き尽くされる」
と告げた。

夜の橋の下を通る散歩道。煉瓦を持ってガープと言い争っていると通行人の男性が。彼が娘を夜なよな性的に虐待しているビジョンを見せられ「彼女は28才で自殺する」と耳元でささやかれると、ニーダは男性の頭部目掛けて煉瓦をフルスイングしていた。

仕事を終えてから酒場に赴き、デパートの客、キースに目をつけた。3年前に妻を締殺したものの、過失致死で刑を免れた男だ。ガープの話だと犯行時に勃起していたらしい。
酒場を出たので後を追う。
立ちションを監視していると気づかれ、自宅に誘われて薄汚れた室内へ。
寝室でトンカチを出してもキースは抵抗しなかった。
「いつかこうなる気がしていた。報いは受ける」
愛していた妻の思い出話をはじめたすすり泣く中年の頭をトンカチでかち割り。飛び散る鮮血。ニーダは返り血を浴びながら何度も振り下ろした。

帰り際に若い男が帰宅して想定外。腰が引けた者同士、キッチンで揉み合いになって包丁で刺し殺してしまう。
ガープの話だとキースの弟クリスらしい。
落ち込むニーダを、ノルマ達成でガープが励ましてくれるが、札のカウントには残量が。上司に電話で確認してもらうと、キースが人殺しだったのでノーカウントに……。
ノルマが達成されないとガープは、ぼっちで虚空を永劫彷徨う刑らしい。
「私の人生みたい」

翌日の職場。ガープは最後の相手を、職場の嫌な同僚ヴィッキーと提案。
最初の被害者の男性の娘が母と買い物にやってきて、機嫌が悪い。ガープに「彼女は29で母になる」と聞かされて少し気持ちが楽になった。
最初に街頭演説していたスマートが靴を買いに。ガープに彼の未来を見せてもらうと、保守党を離脱し、新党ブリタニアを結成。移民を排斥する極右の首相になっていた。

ヴィッキーの命令を跳ねのけ、マネキンから赤いレザージャケットをパクって車で出発。
夜の演説後。別荘に向かうスマートの車に並び、側面衝突。跳ね飛ばされた彼の車は森の木に正面から突っ込んで大破した。
足を引きずりながら運転席から出てきたスマートの頭にトンカチの一撃。さらに脛を砕いて逃げられないように。とどめを振りかざすと、ニーダを尾行していたレン刑事が到着。「スマートが暴走すれば俺が止める」と説得されて殺害を諦めてしまう。

ニーダは警察の取調室で深夜の12時を迎えた。空から核爆弾が降り注ぎ、世界は地獄の業火に包まれた。
ギープは規則を調べ、人間の同伴が可能な抜け道を見つたらしく、彼女を虚空へと誘った。
「物は試しね」
笑顔の2人は恋人つなぎ。オレンジの爆風が都市を呑みこんでゆく。

🔨猟奇殺人鬼が妄想の中にいるもう1人の自分とバディを組む、怒りのホラーコメディ。
サディスト版の『ノック 終末の訪問者』
核戦争が現実の恐怖として蔓延していた70年代に連れて行ってくれる。
虐げられた移民が犯人という、センシティブなネタをド直球で投げてくる姿は『俺たちクローン』に通じるものがある。

脚本はニーダと立場が近い『ミズ・マーベル』のビシャ・K・アリとの共同脚本なので説得力がある。
ミッションには失敗するが、影を受け入れて孤独から解放される閉じ方はハッピーエンドともとれて、鑑賞後は笑顔に。
今後はこのレベルの自己肯定感は必修になるだろう。


【ドラマを振り返って】🌃☄️
昨今の流行に乗って超自然的が採用されているのが、新要素なのだとか。
SFとは別世界だが、現実を面白くする魔法という点で共通しているので違和感はなかった。

ただ、SFファンが、生成AIと宇宙ステーションしか出てこない点を物足りなく感じるのも理解できるので「どっちつかず」や「刺激に乏しい」と批判されるのは仕方ないだろう。
SFも奥が深いので、最新技術の勉強で忙しく、他のジャンルに手を出している場合ではないのかも。

ただ、わたしは新参で過去作を知らないのでw
頭脳明晰なブルッカーが担当した脚本は期待通り。
想像していたよりも再生時間が長くて肉厚。映像も綺麗で驚いた。
何より、映画では体験できない実験的な内容ばかりで満足感は大きい。

俳優の選び方から、物語の方向性まで趣味がぴったり合っているので、繰り返し視聴しても気持ちが楽。好きなクリエーターに入れても良さそう。
面白いドラマが見つからない月にでも、シーズン1から掘り返してみます。
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