虹島流浮

ベター・コール・ソウル シーズン6の虹島流浮のレビュー・感想・評価

5.0
名作。過去を悔いても今だけは悔いるな未来に後悔はもっていくな。
このドラマを観ないでこの世からいなくならないでほしいくらいに皆さんに観てもらいたい。

『ブレイキング・バッド』は完全なる創造物として自分の人生の中で最も楽しめたドラマの一つでしたが、
『ベター・コール・ソウル』は線引きの甘い安定しない”人間”の是非を問う現実社会問題として自分の日常の一部と化しました。

ウォルター・ホワイトという人物は私にとっては別次元の人間で何の共感もなかったからこそ外部の人間として楽しめました。
しかしソウル・グッドマンは理解ができる。
だから苦しい。だから好き。だから嫌い。
それは他の登場人物にも当てはまる。
彼らの心情を自然と分かち合える。
日常の中での憎悪、嫉妬、逃避、愛が人と人とを連結させて負を招く。偶然ではなく。

過去に行って未来を変えることは不可能でも、現在から過去を変えることは可能で、そのためには現在の自分が変わる必要がある。
それゆえタイムトラベルは可能である。
「自分の人生の中でやり直すならどの時代に戻りたい?」という問いは深い。
その答えを聞くだけでその人の人間性が見える。
本当の後悔を明かさずおちゃらけて濁す者、作り話をする者、正直に後悔したことを述べる者、それなら直接後悔してることはあるか?と少し機嫌を損ねる者。

「後悔」という感情はその人を弱くも強くもする。隠すこともでき公にすることもできる。現在のその人次第。
ソウルは葬ることのできなかった良心をもって、ジェームズ・マッギルとしてチャック、キム、ハワード、ハンクとゴメスの奥さんたちへの罪の意識を告白した。
彼が過去を変えた瞬間として捉えました。
全てを受け入れて正直な人間として逃げなかった瞬間でもありました。
キムの存在がそうさせた。
どれだけこれまでソウルに欺かれようと、
最後には彼を信じてしまうのは、これまでの積み重ねがあったからこそ。
最低の嘘つきであり、最高の正直者。
刑務所でもきっとお得意の話術を駆使して自分の都合のいいように生き抜いていくことでしょう。

弱さから逃げて強さを手に入れるソウル。
弱さから逃げずに立ち向かい全てを失うキム。
2人が一緒にいることは不可能。
バランスが取れてるようで崩壊を必然的に手繰り寄せていた。

悪に完全に陥ることはできず良心の残るナチョとマイク。
中途半端な者はこの世界では生き残ることはできない。
ナチョはジェシーと重なる。
「後悔」を抱えながら悪に完全に陥ることは不可能なのである。
どれだけ逃げようが追いかけてくる。
そして自らを殺めるもしくは死に追いやることになる。

ハワードはあまりにも不憫すぎる。
でもそこに居合わせて死ぬというのも何が起こるかわからぬ人生なわけで。
キムの涙が忘れられない。人はどうしようもなくなると泣くしかない。

このドラマはそれぞれにとっての善悪の境界線での苦しみと解放の瞬間を捉え続け、逃すことなく立ち向かい、見る側ですら一体化させてしまう罪深き物語でした。

時間軸の操作もお見事で、全てが最後に集約されるようになっている綿密な計画性をもった編集が素晴らしい。

ベターコールソウル!