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家政婦は見た!のmidoredのレビュー・感想・評価

家政婦は見た!(1997年製作のドラマ)
5.0
言わずと知れた伝説のドラマです。伝説になるだけあって圧倒的な面白さでした。

ワケありの中年家政婦、石崎秋子。掃除機と雑巾を片手に、セレブの私生活を観察するのが唯一の楽しみ。ルサンチマンと憧れの間でたくみに愛や毒を注入し、混乱を楽しみ、どでかい爆弾を落としてから立ち去る。そのあと必ず天罰がくだるも、懲りずにまた別のお屋敷の門をたたく。

だいたい毎回こんな感じです。だんだん悪意が消えて、最終回あたりはもう正義のおばちゃんになっちゃいますが、展開は基本的に時代劇なみのお約束です。「ごめんくださいまっせ〜〜!」からの「カーッ!!(時代劇の効果音)」がしみます。毎回「ハルミちゃん」が別の猫なのも薄ら怖くて良いのです。

このドラマに出てくるセレブはだいたい金に汚くて、下半身に節操がない。良い服を着ていても情がなく、うっすらと不幸です。人の悪徳と欲望を煮締めたソドムとゴモラの住人であり、貧乏人の恨みつらみが込められたキャラでもあります。

それをじっと見つめる幸うすい家政婦……

こう書くと、いかにも重苦しいドラマなのですが、これがけっこう明るい。というのも、家政婦仲間たちが繰り広げるドタバタコメディと庶民感覚がセレブ家庭の毒素を中和するんですね。

家政婦たちはみんな独りで世間の荒波を生きのびてきた女だから雑草のようにたくましい。自然なシスターフッドのある家政婦紹介所はさながら大人の女子寮です。それぞれ大変な人生だろうに楽しそうで癒されます。また、セレブに負けず劣らず欲深ながら、基本的に浅はかなので損ばかりするお約束のドタバタが可笑しい。

ドタバタだけでなく、主人公の哀しさや侘しさも漏れるこの大沢家政婦紹介所の場面があってこその『家政婦は見た!』です。

で、この両軸をベースにして、毎回様々なジャンルの「上流社会」が紹介されます。たぶんここがこのドラマの最大の見どころなんじゃないかなと思ってます。

デパート王、有名デザイナー、大学の学長、不動産王、大病院の院長、銀座のクラブ経営者、茶道花道家元、美容整形クリニック、政治家、ベンチャー企業経営者などなど。全25回すべて違います。まるで金持ちのカタログです。

どれもこれも、庶民には閉ざされた立派な門の向こう側の世界であり、あるのは分かっていても、特に注目したこともない別世界です。

そんな業界の仕組みや問題点が物語を通じて紹介されます。まさに、家政婦さんと一緒になって未知の世界へ足を踏み入れる感覚で見れる。しかも、完全なる傍観者として。

ぼんやりとしか知らなかった世界への好奇心、セレブの私生活をのぞき見るデバガメ精神、敷居の高いお屋敷の観光、このドラマはこうした泥くさい庶民の欲望をすべて満たしてくれます。大人気だったのも分かります。

しかも、業界情報はリアルで、モデルになった人物も簡単に推測できます。中には実際の事件も使われていました。特に美容整形クリニック編はドキュメンタリーで見た通りの内容だったので、悲鳴を上げながら楽しく見れました。虚と実のバランスが良いなと思います。

このドラマは、観客であると同時にトリックスターでもある家政婦「石崎秋子」が主人公の「階級探検ミステリー」なのではないでしょうか。アマゾンの奥地やエベレストではなく、自分たちが生きてるこの社会の未開地に、単身で踏み込んでゆく平凡なおばさんの冒険譚なのです。

いや、本当に、これほど過不足なく視聴者のニーズを満たしたドラマもないんじゃないかというくらい見事でした。これぞドラマです。永遠の名作だと思います。そしてやはりドラマは大映テレビだなと改めて思いました。
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