この作品の後、野沢尚は謎解きドラマの執筆に没頭してしまう。「眠たくなるような不倫話」と、この作品は批判されたのだろう。しかし、満を持して書いたサスペンスでの世間の論調は、犯人はすぐに分かったとか何とか、どうでもいい話ばかり。推理サスペンスの醍醐味を理解していない。
好きになれないならば言葉にしなければよい。好きになれなかった事を共感するほど愚かな事はない。誰かの心に響かなかったのは、その人に自分とは違う心があっただけ。自分とは違う部分を受け入れず、共感できる一瞬を見逃している。
こんな業界で生き延びられる図太さは、野沢尚にはなかったのだろう。繊細でなければ、こんな脚本は書けない。一生のうちで、一度だけ、誰にも書けない一瞬が描ければ良いではないか。野沢尚は、そんな作品を残したと思う。