ことりこあゆみ

蛇のひとのことりこあゆみのレビュー・感想・評価

蛇のひと(2010年製作のドラマ)
4.8
TVドラマ「蛇のひと」…これ時々観たくなるんですよね!

いわゆる“人たらし”の役を、西島秀俊さんが出番は少ないものの、ほぼ無表情で目の色や視線など繊細な演技で魅せてくれます。

WOWWOWで放映されたテレビドラマですが、その後 劇場公開もされたそうです。

何よりもWOWWOWシナリオ大賞の脚本が秀逸で、 続きがどんどん知りたくなる飽きさせない構成と、後半の「こうくるか?しかし…」という思っても見なかった意外性、何度も聴いて味わいたくなる深みのある台詞。

永作ちゃんもいい味出していて「これは掘り出し物ー!」と感心した作品です。

台詞と言えば、西島くんの関西弁がレビューでは賛否両論ですが、ネイティブでないからこその“怪しい関西弁”のイントネーションも、むしろ狙った演出・演技だったのでは?

この関西弁、得たいの知れない・掴みどころのない“今西”という男の人物像を、引き立てていたと想います!

前半、部下の三辺(永作ちゃん)に対して今西が呟く「あれ!この人 返事しないよ」という一言の、声色とイントネーションに吹いてしまい、その台詞だけ何度も繰り返し聴いてしまいました(笑)


1億円の横領の嫌疑をかけられ、突然失踪した 今西課長(西島)。

三辺(永作)の捜索によって、少しずつ彼の“人となり”が浮かび上がってくるのですが、
彼と関わった人たちは「口車に乗せられて、微妙に不幸な人生へと狂わされている…」ということが見えてきます。

今西本人は、好意でアドバイスしているつもりなのでしょうが、一方で「こう言えば、たぶんこうなっていくよな」というところまで、おそらく先に読めてしまってもいて、言わば確信犯。

だから、彼を「サイコパス」と言う人もいる。まさに口の巧い「人たらし」なのでしょう。

「なるほどね、わかる、こういう人いるよねぇ…」と思わせる人物造形が見事です!!

ただ、サイコパスと断定できるほどの“根っからの悪人”ではないだけに、その線引きが微妙で、それがこのドラマに深みを持たせているとも想う。


今西は、生まれつき能力が 人よりもずば抜けて高く(後半で描かれる“芸能”の能力だけでなく)すべてにおいて高い能力を持ち合わせて生まれていたのでしょうね。

そこに、彼の生い立ちや境遇により、自分が生き残っていくためには身につけざるを得なかった話術や、培われていった人格形成が、
とても切なく響き、重い説得力をもって迫ってくる終盤がすごいです。

今西役の子役の子も素晴らしい!!

全体のトーンとして軽やかにすら感じる前半と、生い立ちが描かれた後の終盤では、今西を観る目がまったく変わってしまう……そんな自分の心理の変化も楽しめます。

今西は一体、本当に“悪人”なのか“サイコパス”なのか……わたしにははっきり確信することはできませんでした。

クライマックスの埠頭での 今西と三辺の会話と表情の演技に、すべてが濃縮していて何度も繰り返し観て味わえるし……
含みを持たせたラスト、エンドロールまで楽しませてもらいました。

今回レビューを書きたくなって何度目になるか見返したのですが、
あぁーー何度観ても面白いわ!!

複雑な心理ものの作品や人間観察がお好きな人には、間違いなくおすすめできます。
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