NM

ザ・ボーイズ シーズン1のNMのレビュー・感想・評価

ザ・ボーイズ シーズン1(2019年製作のドラマ)
2.3
ヒーローが実在したらどうなるかを現実的に考えて制作され、日々の社会情勢を反映させた作品。人間性が復讐心とせめぎ合う様子がみどころ。

何やらごく低い確率で特殊能力を持ったスーパーヒーローが生まれてくる世界。
そのヒーローたちのマネージメントを一挙に担うのがヴォート社。なかでも特に人気の7人が「セブン」と呼ばれる。
人命救助や福祉、芸能活動で活躍し、世界中から人気。極度にアイドル化され、世論や政治をも動かす存在。
社員たちはもちろんヒーローたちも私利私欲に取りつかれ、実際には他人のことなど何とも思わない者も。

彼らの争いに巻き込まれた被害者たちはその実態を暴くべく集い「ザ・ボーイズ」と呼ばれ、セブンたちに挑む……。

ストーリーは簡単なので大体で良ければ途中からでも観やすい。人間のエゴを正面から捉えそのまま見せるシーンが多く興味深い。

例えば人種差別的発言や、実在の芸能人を激しくこき下ろしたりして普通みんな言わないことを言ってしまうことも多く、こういう単純な言動パターンは子どもや若者にうけやすい。事実はそう単純じゃないのは言うまでもない。暴力や性表現というよりも、子どもが誤解したり悪影響を受けかねない描写があるための制限に思われた。あとは放送禁止用語。

ヒーローたちはそれぞれ様々な特徴を持つのでそれを活かした活躍場所、売り出し方などが面白い。
ヒーロー全員が完全に悪というわけではなく、ヒーローとしての自分を健康に認識することは非常に難しい様子でそれぞれ揺れ動く。
ザ・ボーイズたちも別に完璧でも一枚岩でもなくそれも悲しい。別にエリートが集結したわけではないが、ヒーローたちの実態がずたぼろなので彼らを応援したくなるように作られている。
ブッチャーはじめ彼らは復讐をするつもりのなかった人をどんどん巻き込んでいく。

ブッチャーは、妻を失った一方で女性を見下したりヒューイを常に馬鹿にして決して一人前と認めず、仲間が必要なのにむしろ周りを不幸にしがち。復讐だけが生きる糧で過去に縛られている。自分だけが正しく賢い、他のやつらは分かってない、という態度。ヒューイが幸せになっていくのを快く思わず足を引っ張る。回想シーンで、そんなブッチャーを妻がどうコントロールしていたかが垣間見えて面白い。
地上波ドラマでは使えない卑猥後を連発するところが人気らしいが、日本語版ではかなりまろやかな表現になっている。

ヒューイは酷い事件を経ても意外とポジティブな思考の持ち主で結構強い。
素直で心を閉ざしていないので復活が早かった。自分を過信していないことが強さでもある。冴えない印象だが、大切な人を二度と失いたくないのかいざとなると時思い切った決断をするというキャラクターは一番共感することだろう。
ブッチャーにいつも人格否定的な言葉を投げられるが、決して同じことを言い返さないところが知的。

一番色んなことをこじらせているホームランダー。
他の人物たちは多面的で同情の余地もあるが、彼にはほとんどない。何より圧倒的に変態なので理解しづらい(彼を性的に操るマデリンも相当気持ち悪い)。彼が悪役であることで復讐劇が成り立つ。自分こそが警察であり神なのだという考えはアメリカの暗部の象徴。演じているアントニーは、トランプ大統領をモデルにしたそう。

クイーン・メイヴ
普段は他人とバチバチにやり合うのに目の前で命が失われると自己嫌悪になるという一貫性のなさが非常に人間的。
はじめはスターライトと同じように純粋だったが経験とともに変わっていったのは、誰でも共感できる点だろう。今後も立場を変化させることが予想できる。
演じるドミニクは驚くほど真っすぐな美脚。

スターライト
葛藤が見どころ。夢を掴む、打ち砕かれる、妥協する、打ち破る、居場所を見つける、現実と折り合いをつける、再び挫折、などの紆余曲折が分かりやすく応援しやすい。ちょうどMeToo運動と重なり人気も出たそう。

ディープ
ろくでなしだが動物には優しいのが不思議。一部にだけ優しい人というのは現実にもよくいる。
人と違う体を持つ自分を認めることができず、そのためにはどうしてもセブンでいたい。徹底的に堕ちていく様子は痛ましいところもあるが、謝れば許してもらえると思っている甘さが抜けない。

キミコ
さらわれた日本人でフィリピンのジャングルで育ったという設定はどうも馴染みづらい。なかなかなつかない猫のようなかわいげはあるが、心情があまり丁寧には描かれないので何を考えているかずっとわからない(シーズンが進むとわずかに触れられるが)。今後魅力的なキャラになるのかあっけなく死亡させられるのか。
眉を海苔のように真っ黒に書かれているところが悲しい。そういえばフレンチーも、びっくりすると簡単なフランス語が出てしまうという安直な設定が気になる。コミックでは良かったかもしれないが映像化では必ずしも必要だっただろうか(この作品の原作ファンたちはかなり正確性を求めるタイプが多いう)。

ストームフロント
ナチの生き残りという設定だけあってメディア戦略(SNS類)に長けており演説も上手。現代でもまたこうして社会が動かされていくんだなという説得力があり、怖い。

ヒーローとか正義というテーマはありつつ、誰の人生にも共通するものがあるのでアクションとかファンタジーだけのストーリーではない。
『「優しい」と「良い」とでは全然違う。』

明るいストーリーではないので、気分が悪くなったらプライムのyoutubeチャンネルにあるNG集や、同じくプライムにあるトーク番組『インサイド ザ・ボーイズ』がおすすめ。当たり前だが主要俳優陣は役とは大違いのそれぞれ良いキャラで、観れば好感度が回復すること間違いなし。みんな仲が良く明るい。(但しエピソード1ではシーズン1の、2では2のネタバレあり)
NM

NM