マカ坊

マインドハンター シーズン1のマカ坊のレビュー・感想・評価

マインドハンター シーズン1(2017年製作のドラマ)
4.5
先日なぜかふとゾディアックを観返して、その完成度の高さと、フィンチャーの「執念に対する執念」に改めて心動かされ、そのままの流れでマインドハンターも再見することに。

映画ゾディアックはその長さと、史実の暗澹たる幕引きゆえ、映画のクオリティの割に大衆受けは悪い印象がある。しかし事件の調査だけに18ヶ月を費やしたというエピソードからも分かるように、フィンチャーはこの題材に並々ならぬ情熱を注いでいた。撮影中には事件の新たな証拠を警察に提出したというのだから、最早彼は、この映画の元となったベストセラーの著者であり、実質的な主人公であるロバート・グレイスミスの半生をトレースしていると言っても過言ではないだろう。

残忍な事件そのものよりも、そういった"悪意の彼岸"に取り憑かれてしまった人間のスタイルへの興味。
そしてそういったスタイルを持ってしまった人間はどのように自らの人生にケリをつけるのか。

少し大袈裟かもしれないが、このゾディアック以降、フィンチャーは早くも自分の人生への(少なくとも作家としての)ケリの付け方を模索し始めているように思う。

翻ってこのマインドハンター 。

全方面に行き届いた緻密な絵づくりと挑戦的な演出は今見ても極めてリッチで、題材もテーマもゾディアックのさらに先を見据える。シーズン5程まで構想中だったようで、まさにフィンチャーの執念のライフワークになり得た作品だ。

シリアルキラー達に対するインタビューにおいてFBI捜査官のホールデンは度々、「人生のどの時点で彼らは"そう"なってしまったのか」という問いを立てるが、レッドツェッペリンのIn the lightが爆ぜるエピソード10のクライマックスを目の当たりにした我々視聴者は、ここで全く同じ問いを自らの記憶に尋ねることになる。「こいつが決定的に"こう"なったのは何話のどの時点なんだ?」と。

全10話の"録音テープ"もといエピソードを頼りにこの男の抑圧とミソジニーの萌芽を探ってゆく我々は、無自覚で無言なビンジウォッチインタビュアーに他ならない。そしてこのインタビューを文字通り監督するフィンチャーもまた同じ。

執念は人を壊すのか育てるのか。

単純な二元論の危うさはケンパーも教えてくれたが、シーズン2で打ち切りとなってしまったこのシリーズ。どんな形であれ、フィンチャーにはロバート・グレイスミスのようにいつかその"執念"にケリをつけて欲しいと思う。
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