キレナイカ

高い城の男 シーズン4のキレナイカのネタバレレビュー・内容・結末

高い城の男 シーズン4(2019年製作のドラマ)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

後半、原作小説の内容にも触れるのでネタバレ注意です

 ラストシーンに関しては少々難解で、エンドロール中はずっと解釈に悩んでいました。
 この話の結論は、要するに「自由なアメリカ万歳!」です。この話の反ファシ勢力(レジスタンスやBCR)は自由を求めて戦っていましたが、スミスの死によるナチ統治の終焉+(自由な)並行世界からの人々の到来=自由なアメリカの夜明け(フランクの絵が暗示していたもの)を以てそれが成就されます。ただし、自由な”アメリカ”を至上とし、その勝利を以て物語の集大成とするのはアメリカ国外の人間にとっては少々腑に落ちないものであります。だからこそ難解であったし、米国人でない自分にとっては好ましい終わり方ではありませんでした。
 一方、主題は全く別のところにあり、だからこそ米国至上主義的なこの結末は小生の作品自体の評価に然程影響していません。この作品における主題は、「愛する人の為に生きる人々」です。主要人物の多くに愛人が居て、あるいは子供が居て、彼らは愛する人と自らの仕事や使命との間で揺れ動きました。最終的にそれが一元的な結末に至らず(つまり、愛する人の為に生きる人皆が報われ、幸福になるといった単純な結末とならず)、目的を成就したり、絶望死したり、あるいは悔い改め新たな人生を歩み始めたりしました。冷酷だと思われているが、実は家族想いな一面も持っているという特徴を同じくする木戸警部とスミス元帥が対照的な結末を迎えたことは特筆すべきでしょう。
 もう一つ、この作品全体における優れた考証も、高く評価できる点であります。各勢力の成り立ちや統治システム、移動手段や武装など、かなりリアル、あるいはリアリティを以て描写が成されていました。
 最後に、小説と比較すると、一言で言うならば「全くの別物」です。世界観設定に関しては共通していますが、物語の中核を担っていた易経は脇役同然かそれ以下の存在になっていますし、登場人物などはオリジナルの人間はもちろん、原作に登場する人物もほとんど別の人間と言っていいでしょう。ジュリアナは原作よりも感情的で、田上は権力者であり、アベンゼンは世の理を全て見通している仙人の如き人物でした。原作ではジュリアナはかなり聡明であり、田上は無力ながらも勇者であり、アベンゼンは意味深でありながら結局無知な人間であったのにも関わらず、それらはあまり踏襲されていませんでした。あと、チルダンに至っては原作では日本糞くらえという思想に至ったのにドラマでは日本人と結婚し、日本に行ってしまうという全く真逆の思想に行きついていました。ですが、だからといってリスペクトを欠いているという訳ではなく、寧ろ性格に関してはおおむね原作通りになっています。
原作との整合性は期待できませんが、一方でオリジナルの展開に上手く原作の要素を落とし込んでいると言えるでしょう。
 まとめると、結末はお世辞にも満足できると言えないものの、全体的にクオリティが高く、見る価値が十二分にあるドラマだったと言えます。上述していない部分、例えば俳優の演技などにおいても素晴らしい部分が数多くあり、架空戦史もののドラマとしては間違いなく傑作です。
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