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市長死すのnorisのレビュー・感想・評価

市長死す(2012年製作のドラマ)
3.9
舞台となる「静岡県の志摩川温泉」というのは原作(1956年の短編)からして架空の温泉町。ロケ地は愛知の湯谷温泉らしい。鉄道は大井町鉄道。

失踪していた市長(イッセー尾形)が温泉町で転落死し、その謎を甥の市議(反町隆史)が追う、という話。

現代の話に置き換えられているため、市長が元商社マンで、駐在先の東南アジアで政変が起き、現地の日本食堂の女(#木村多江)が現地交渉用の裏金5億円が消えた、というエキゾチックな話になっているが、原作では市長は南朝鮮司令官で、女は現地の愛人、持ち去られた金は軍の金である。

市長がテレビの観光番組で女の姿を発見し、市議会を放り出して温泉町に向かったというところは原作通り。ドラマでは旅館の主人が石黒賢なのですぐに先が読めてしまう。

問題は木村多江の悪女ぶりである。ほとんど「演技のできる壇蜜」とも言える木村は、「伯父を愛していたのですか」という反町の質問に「…気持ち悪い」とアスカのように呟き、ラストシーンで、それまで足を引き摺っていたのに急にスタスタと歩き出している。原作ではこの女の心情描写はないので、これはいかにもテレビ的な結末の付け方で、木村の存在がドラマの性格を変えてしまっている。

イッセー尾形と反町隆史は熱演しており、この二人の関係がドラマ上のテーマのはずだったと思う(一番の蛇足は飛び入りの倍賞美津子)。原作では血縁関係などなく、なぜ市長の事件にのめり込んでいくのかわからないので、事件解決後に反町が「ただいま」と妻に告げるシーンで終わるべきだったのだ。

なお、本作は珍しく映像化が乏しく、映画化はなし、先行ドラマも1959年の1本のみである(本作は2012年放映の2時間ドラマ)。
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