Larx0517

Looking/ルッキングのLarx0517のレビュー・感想・評価

Looking/ルッキング(2014年製作のドラマ)
3.5
静かな雄弁。
これぞアンドリュー・ヘイ節。

シャーロット・ランプリング主演映画『さざなみ』を観て、同じくイギリス人アンドリュー・ヘイが監督ドラマということで改めて再鑑賞。
ちなみにフランスのゲイ監督フランソワ・オゾンも彼女をよく起用する。
ヨーロッパ系ゲイ監督のミューズ、シャーロット・ランプリング。

舞台がNYでもLAでもなく、サンフランシスコだというのもかなり大きな影響を作品に与えている。
ゲイフレンドリーな都市というだけでなく、カルフォルニア全体もリベラルだが、なかでもサンフランシスコはアメリカでも屈指のリベラルな都市。
どれくらいリベラルかと言うと、大学や公共施設の多くトイレが男女共用。
(リベラルの好例として出すのもいかがなものだが。)

パトリックが今作で話している通り、この都市に住むということは、意味を持つ。
このアメリカでも先鋭的な都市を舞台に選んだのが、イギリス人監督アンドリュー・ヘイというのも興味深い。

余談にはなるが、アメリカ社会の抱える闇をコミカルに描いて、アカデミー作品賞を取るほど絶賛された映画『アメリカン・ビューティ』。
この作品の監督サム・メンデスもイギリス人。

再鑑賞で気づいたのだが、パトリックがリッチーを紹介する時に、今は理容師だが、いずれ何かをやるつもりだと、パトリックが勝手に説明する。
後にパトリック自身がそれを受け入れるが、平たく言えば、恋人をそのまま受け入れられず、見下しているのだ。
敢えて書くが、そこにはリッチーがメキシコ人というのもあるだろう。
だからこそ、リッチーが付き合い始めた彼の説明を聞いて、
「赤毛のアングロサクソン人(イギリス系白人)!」
とパトリックは驚くのだ。
ダイバーシティの代名詞でもあるアメリカ、そのアメリカのなかでもリベラルな都市に住むマイノリティであっても、さらにマイノリティのなかには無自覚ではあっても差別や偏見はある。

パトリックが、リッチーをというよりは、リッチーのボーイフレンドという自分自身を擁護するために、リッチーが向上心を持っているように見せる。
キャリアアップして、リッチになって良い生活を目指すことが、幸福になること。
これを当然として、なんの疑いもなくパトリックが信じている。

たくさん稼いで、たくさん消費するのが善。
資本主義という名の「キャリア宗教」。
これもある意味、アメリカを含む多くの国が抱える闇のひとつではないか。
リッチーのように、賃金が低くても、やりたいことやって生活が成り立ち、満足しているなら、他人に批判されるものではない。


リアルなゲイライフを赤裸々に暴くというよりは、3人のゲイの人生の一部を垣間見る感じが見る者を近づける。
そのためショッキングな映像やドラマチックな展開もない。
逆に邪魔なのだ。
文字通り白日の元に晒す、何もかも暴き出してしまうような、カルフォルニアの陽光を遮るように、あえてドラマ全体に軽く青みがかったセピア色がかかったようなフィルター。
どこか寓話じみてくる。

キャッチーではないが、それだけに染み入る。
多くを語らないことで、見る者の心の中で、見る者が語る余地を作る。
空白の美学。
語らないことで、多くを語る。
これぞアンドリュー・ヘイの真骨頂。
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