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ハンナ ~殺人兵器になった少女~ シーズン2のrayconteのレビュー・感想・評価

5.0
素晴らしい傑作。
現時点で、個人的には2020年最高のドラマシリーズだ。

2011年の映画をリブートした作品である本シリーズ。
今や大スターになったシアーシャローナン主演で制作された映画版は、ダークでありつつもMVのようなポップさとケレン味を持った怪作だったが、本シリーズは一転して北欧映画的マイナーコードの空気が全編に漂う、暗くも透明感に溢れた作品に生まれ変わった。

基本的に映画版のシナリオをなぞったS1とは異なり、S2は完全なる新作。
前作で父の死と引き換えに組織の手を逃れたハンナとクララが、深い森に隠れ住んでいる所からスタートする。

S1も素晴らしい出来ではあったが、物語の主軸にあるのは比較的オーソドックスな「親子ドラマ」であり、暗い雰囲気ではあっても理解しやすいものだった。
それがS2では、子が大人に、1人の人間としてのアイデンティティを見つけていく物語となっていて、その課程の描き方こそがS2を前期を上回る傑作たらしめている。

ハンナの変身、華麗な銃撃戦、クララのクライマックス…名シーンは数々あるが、特に僕が挙げたい箇所がある。
それは、メドウズの職員テリーミラーが、
ウトラックス計画の中心施設メドウズでの生活に馴染もうとしないハンナ(ミア)に対して見解を述べるシーンだ。
ここには、作品のテーマが暗示された極めて重要なセリフがある。

「他の訓練生は元々絆というものを持っていません。だから、与えるだけでいい。でもハンナには、元々持っている父との絆がある」

簡単に説明すると、ウトラックス計画とは幼い少女を極端な閉鎖環境内で暗殺者/スパイに育てるもので、計画最終段階において訓練生たちは自らの社会的立場を付与される。年齢、職業、出身地、そして家族。
もちろんこれらは全て架空の単なる設定にすぎないが、テリーミラーは訓練生たちと父や母、あるいは友達や恋人としてチャットで会話し、訓練生たちの生活や感情の変化を監視する役割にある。

実在しない家族を与えられた際、訓練生は二つの反応に分かれる。
擬似であってもそれがどこかで本当に存在し、家族だと信じ込もうとする人間。
擬似として一線を引いてはいるが、組織に属することがアイデンティティだと信じ、自分の設定に忠実であろうとする人間。
二つは正反対に思える反応だが、何者かへの依存という根本において、全く同義と言える。
そしてそれは、唯一組織から逃れ、独立した存在であるように見えるハンナにも当てはまるものだ。

ハンナは父を失ったと同時にクララを得た。父への依存を、そのままクララに移行したのだ。
だがクララは自分の家族を探すため、ハンナのそばを離れる。
ハンナが文字通り血眼になってクララを探すのは、依存症に他ならないのだ。
それは愛なんかじゃなく、クララの意思を度外視した身勝手なものだ。
だからメドウズでの生活に馴染むクララの変化を、ハンナは受け入れることができなかった。

そのハンナが、クララの母を探し出したラストは、ハンナが「家族」への依存から脱し、個人のアイデンティティを確立しはじめたということを意味している。
1人の人間の成長と自立を描くストーリーとして、ほとんど完璧な結末だ。

「で、次はどうする?」
S3では自立したハンナがどこへ向かうのか、今から楽しみだ。
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