こたつむり

フジコのこたつむりのレビュー・感想・評価

フジコ(2015年製作のドラマ)
3.0
稀代の殺人鬼フジコを描いた物語。
ということで、かなり血生臭い描写が多いのですが…うーん。配信ドラマなのに全年齢向けを意識したのか、過激なのは表層だけ。臓腑を掻き分けて深奥に辿り着く感じではありませんでした。

血とか肉片を観たいんじゃないんです。
精神的な部分で“鉄の味”がしないと面白くないんです。

思うに“噛み砕き過ぎ”なんですね。
それを顕著に感じたのは谷村美月さんを語り手とした部分。“当事者”なのに視聴者寄りの立ち位置だからか、言動に“屈折した感じ”がないんです。

やはり、凄惨なドラマに欲しいのは“歪み”。
如何にして日常から飛躍するか…がキモなので、もっと彼女を汚したほうが良かったと思います。怒りとか憎しみとか哀しみとか。そんな負の感情が物語に深みを与えるのです。

きっと、監督さんは優しい人なんでしょうね。
最終回の“あの場面”を見れば、なんとなく分かります。というか“あの場面”のために全ては在った、と言っても過言ではないと思います。

その布石で描かれたのがフジコの人生。
確かに「壮絶」としか言えない展開です。“息を吸うかのように人を殺す”説得力は圧巻。某『冷たい熱帯魚』を彷彿させる場面は過激さ控えめですけど寒気がしました。

また、細部までこだわった描写も見事な限り。
チャンピオンコミックスとか、5/8チップスとか、昭和を感じさせる小道具にセンスの良さを感じました。

役者さんたちも見応え十分。
特に思春期のフジコを演じた小野花梨さんは覚悟が違います。何しろ、未成年なのに下着姿も辞しません。それに相対する佐藤玲さんも感嘆の極み。実年齢は8歳も違うのに同級生を演じても違和感がないのです。

勿論、主演の尾野真千子さんも見事。
正直なところ、年老いた場面は特殊メイクで老けさせたほうが良かったと思いますが、それは演出側の話。表情だけでググっと惹き込めるのは名優の証左だと思います。

まあ、そんなわけで。
胸糞悪くなる佳作ですが、製作陣と役者さんの温度差が気になった作品。伏線の張り方も分かりやすいし(途中から参加した愚息も真相を看破したレベル)最終回の強引さは目を覆いたくなるレベル。期待値は低めが吉です。
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