meguros

北の国からのmegurosのレビュー・感想・評価

北の国から(1981年製作のドラマ)
5.0
不朽の名作。田中邦衛、地井武男、大滝秀治、伊丹十三、既に鬼籍に入られた方々を再び拝むように鑑賞。

農村に移り住み、農民の暮らしを描いたバルビゾン派のように、倉本聰は北海道の厳しい自然の中で生きる人々を描いた。それを当時フジテレビが放送していたのだから、今となっては隔世の感を禁じ得ない。3.11の後に続編を福島でという構想もあったようだが、結局実現しなかった。「北の国から」の負け続ける者たちは我々の身近な人々であり、我々自身でもある。二極化が進むこのコロナ禍に世界が向き合う今こそ、弱者に視点が当てられた物語の続きが見られれば良かったのだが、その可能性(少なくとも映像版)はもはや永遠に絶たれてしまったようだ。

忘れ難いエピソードは数えきれないが、この当時すでに失われつつあった義理や人情、金銭的な貧しさに関わる話にとりわけ胸を打たれた。

その語り部として活躍するのが清吉おじさん(大滝秀治)。農場は自分の代で潰してもいいが、同じタイミングで入植した仲間への義理だけは果たしたいと雪子に告げる場面や、「お前らは何も分かっとらん」と過去を忘れてしまった者たちを叱責した杵次の通夜の場面。令子の通夜でも、五郎を指して「人情がない」と言い放った都会の人間に対して、五郎が遅れて先に帰った真相をぽつぽつと語りだすシーン(23話)があるが、個人的にはここがシーズンハイライト。この後、純と蛍が捨てた靴を探しにいき若い巡査の平田満に出会う所まで含めて、額面付きの”正しさ”ですぐ断罪されてしまいがちな今こそ見られるべき屈指の名シーンだろう。

他にも、杵次(正吉の爺さん)の仕掛けたトラバサミで蛍が可愛がってたキツネが足を怪我する件も心に残る。思い悩んだ正吉が「爺ちゃん、おら狐のチョッキはもういらん!キツネはもう取らんでくれ」と杵次に告げる場面や、「蛍が餌をやらなきゃ、キツネが人を信じることもなく、罠にかかることも無かったのかなあ。蛍があのキツネを殺したのかなあ」と思い悩む場面、そしてこのキツネの話がドラマシリーズの救いとして立ち上がる構成も見事だった。

風力発電で電気が付いたり、雪子の誕生日会、馬を売る話、そして教科書にも載った令子in富良野からの蛍ダッシュはいつ観ても良い。
meguros

meguros