Fitzcarraldo

北の国からのFitzcarraldoのレビュー・感想・評価

北の国から(1981年製作のドラマ)
5.0
言わずもがなの倉本聰が生み出した噛めば噛むほど味が出てくる名作スルメドラマ。

7話の途中からの鑑賞。

#8

○笠松家
吉岡秀隆が演じる黒板純と、中澤佳仁が演じる笠松正吉。

こっそりと日本酒を薄めたものを"水割り"と言って大人同様に嗜む。

この動きから口ぶりまで大人同然。
これは皮肉なのか?!

これを平然と地上波で放送してたんだから、いい時代だわ!

今ならPTA会長がクレームの嵐だろう…。


#9

○笠松家

正吉
「おい!一杯いこうぜ!」


「やりますか!」

正吉
「正月だから盃でいきますか?」


「いいですねぇ〜」

正吉、一升瓶から注いでやる。


「あっこりゃどうも。お注ぎします」
と、純も注ぎ返す。

正吉
「いえいえこれは恐縮。…じゃま、今年も宜しくってことで!」


「うまいっすねぇー」

正吉
「いけますでしょ?」


「いけますいけます!」

正吉
「もう一杯一杯!」


「これは恐縮。辛口ですかぁこれ?」

正吉
「辛口はお嫌い?」


「いえいえ僕は辛口のほうが」

何やってんだよ?!
完全にオッサンじゃねぇか?!
最高だろ!

いまのドラマは子どもは子どもらしく、より子どもとして幼く描きすぎなきらいがある。

子どもは小さくても、親や、親の周りの大人たちのことを、鋭く観察してるもの。
見た目は小さくても、随分と大人びたところがある。

だから、こういう描写は真を捉えてると思う。
隠れて大人の真似して、口調も真似て、よくやっていた気がする。

これを教育に悪いとか言ってくるようだと、テメェたちは子供のことなんざてんでわかってないんだと思う。子どものことなんか見てるようで表面だけしか見れてないんだと思う。

自分が子どもだった時のことを思い返せば、それぐらいの想像はつきそうなものだけどな。


いしだあゆみ演じる母の黒板令子登場!
子どもたちに会いたいと懇願するも、今は勘弁してくれと五郎。
じゃあ見るだけは?と粘る母。

車から見ること、絶対に出るなという条件ならと…五郎。

スキーから帰ってきた純と螢。
留守中に誰か来たことを察知する螢。
部屋が綺麗になってたこと、そして…


「母さんの匂いがしてる」
パジャマに母さんの匂いが残ってると指摘。
確かに、母は螢のパジャマを抱きしめていた。
この辺もうまいなぁ…言葉や見かけたとかではなく、匂いだけで母の存在を表現するとは!
素晴らしく計算された脚本。


第十回

風力発電に必要なモノが届いたというのを聞き、五郎を驚かせようと、雪子おばさんが車を借りて町へ取りに行くと…雪子おばさんひとりじゃ重くて持てないだろうからと純も一緒に行くと申し出る。

螢はどうすんの?ひとりで留守番?可哀想じゃね?螢をひとりにするなよ!


そこへ大友柳太朗演じる偏屈ジジイの笠松杵次(かさまつ きねじ)が現れる。
お手玉であそぶ螢と戯れる。

父、五郎が帰宅。

電気について説教を始める。

笠松杵次
「昔は…懐かしがるだけのもんでない!二度としたくない昔だってある」



第12回

演出:富永卓二

トラバサミの話。

市場に出して売れないように食紅を混ぜてある牛乳でバターを作る黒板五郎。

"赤いバター"の作り方
とりたての牛乳を熱して殺菌し、暫く置くと、上澄みに濃いところが溜まる。それを掬い、一升瓶に三分の一くらい入れて、よく振る。30分くらい振っていると、一升瓶の内側にツブツブが少しずつ付いてきて、ドロっとしたものができてくる。これを網の上で濾すと、クリーム状の脂肪が取れる。これを冷たい水で冷やして固めていく。これを皿の上に移して、ヘラで練りながら水分を抜いていく。それが固くなってきたら、塩を混ぜ更にどんどん練り込んでいくと、それはもうバターになっているわけで…

黒板五郎
「これジャガイモにつけたら最高だぞぉ〜」

この言い方が何より最高である!

そりゃ数々のバラエティでパロディにされるわ。この味わいは田中邦衛ならではだろう。他の役者では、ここまで伝説的なドラマにならなかったように思う。シナリオの良さもさることながら、やはり田中邦衛の存在も計り知れないと感じる。


○黒板家
風力発電が完成し、ようやく家に電気が通る。
照明の電気がつくと…

黒板五郎
「ついたよぉぉ〜オイ!」

この言い方…
最高かよ!つい笑けてしまう。

川からパイプで水をひいてきたり、風力発電で自家発電させたり、いま見ると何だか物凄い先取りしている感。

SDGs:Sustainable Development Goals
→持続可能な開発目標

SDGsを何十年も前から先取りしてるようにも思える。『北の国から』をきっかけにして、この当時から環境活動に先陣を切ってやっていれば、今ごろは環境面で世界に大きくリードした環境大国になれたかもしれないのに…

その布石が、このドラマには含まれていただけに、そう思うと残念でならない。このドラマから何を学んだのだろう…


第13回

演出:富永卓二

冒頭、川辺で、ふきを摘む螢。
農家のおばちゃんに声を掛けられる。

おばちゃん
「ほたるちゃーん。ふき採ってきたのかい?」


「お弁当のおかず!」

(これだけで泣けてくる…)

おばちゃん
「純ちゃんは?」


「いない!」

おばちゃん
「いないって?」


「東京!」

おばちゃん
「東京?いつ?」


「今朝!」

おばちゃん
「どうして?」


「母さんが病気で急に入院して!雪子おばさんと一緒にいったの!」

第九話で母、令子は北海道までやって来て、子どもたちに会わせてくれと五郎に懇願したのだが、いまは勘弁してくれ!と言われ、遠くの車の中から見るだけならとお許しが出る。

な、なのに、なぜ今回はすんなりと純を同行させたのか?そして、なぜ螢だけ北海道に残したのか?この件りだけで1話分の物語を作れそうだが、ここは一切説明も描写もなし!

九話で螢は、母が来たことを分かっていたのに…それなのに、今回は純だけって…螢は、むくれないのかしら?ふきを採る余裕あるかな?なんで私だけ会えないの?ってならない?随分と達観してて大人っぽく見えてしまうのだが…

1話〜6話を見逃してるから、細部までよくわからないのだが…

九話からの繋がりが微妙な気がする…。


○東京の病室
令子が入院している病室。

雪子おばさんと純が入ってくる。
驚く令子。そりやそうやんな…前回は北海道まで行ったのに会わせてもらえなかったんだから。

令子
「純ちゃん、わざわざ来てくれたの?」

雪子
「胆石なんだって?」

令子
「それが違うんだって…(純に向かって)純ちゃん嬉しい!わざわざ来てくれたなんて!」

雪子
「違うって、それじゃ何だったの?」

令子
「神経性のものなんだって」

雪子
「神経性?」

令子
「そっ…(純に向かって)螢は?」


「むこう…宜しくって」

雪子
「だって痛みがヒドイんでしよ?」

令子
「ちょっとね…」

雪子
「いつ頃から?」

令子
「螢、元気?わぁ嬉しいなぁ純ちゃんが来てくれるなんて…」

この雪子と令子の大人の会話と、子どもへの会話がゴチャ混ぜになってるのが、うまい!これがリアルな会話のやり取りかもしれない。飛び飛びでも成立しているというか…現代ドラマは、あまりにも順序よく話すぎてる印象を受ける。

この人の番。私の番。この人の番。私の番。と…

心配で見舞いに来た雪子は、とにかく安心したいし気になるから姉の病状、現状を聞きたい。しかし母は、やっと会えた息子と話がしたい。でも離れてた所為で、どう接していいか距離感がつかめない。息子は息子で、久しぶりの母に緊張してるのか…照れてるのか…

この辺が、ドドドッと見事に表れている気がする。


○代田橋駅のホーム
電車を待つ雪子と純。


「おばさん!吉野さんってどういう人?」

雪子
「どういうって?」


「あの人、母さんのこと令子って呼びつけにしてたから…」

子どもは、ほんとに親のことをよく見てるし、よく聞いてる。鋭いね。今の子供たちはスマホばかりに集中して、こういうところに気付かないだろうなぁ…スマホやるふりしてちゃんと聞くという高等テクができるのか?


○令子の家
誰かと電話している雪子。

雪子
「違うの。問題は病院じゃないのよ…吉野さん。ほら、姉さんの彼氏。彼の紹介で入った病院なのよ。吉野さんの上司の親戚らしいのよ。だから、かわるって言えば吉野さん困るでしょ?吉野さんの立場を考えちゃってるのよ!」

自分の命よりも、男の体面を気にするかね?武士の一分で自害するようなものではないか…。そんな古い美談は、もう存在しないし、理解もされないだろう。今の世には…



第14回

○病室
令子がベッドに座っている。


「お母さん…僕に、東京にいて欲しいの?」

令子
「だって…お父さんと約束したんでしょ?明日帰るって…いてくれるの?本当に純ちゃん…こっちにいてくれるの?」

純の背中。
雪子は扉の外で聞いている。

令子
「明日帰らないで、このままいてくれる?」

純の背中。
雪子入ってくる。

雪子
「キレイなお花。見て姉さん!」

俯き加減の純。


純の背中で引っ張って粘って粘って、満を持しての表情。ベタなくらいたけど、今どきの激しい編集に比べたら、これくらい粘着性の高い編集の方が新鮮かもしれない。決して悪くない。


○喫茶店
純と雪子がご飯を食べている。


「おばさん…ぼく明日、帰らないよ。やっぱりぼく…このまま東京にいるよ。父さんとの約束、破ることになるけど、だけどぼく、母さんが病気で寝てるのに…父さんはきっと怒るだろうけど、だけど、ぼくには母さんは母さんで…やっぱりぼく東京に来なければよかった…」 

雪子
「そう決めたんならそうすればいいでしょ。父さん別に怒らないと思うわ。そういうだろうって父さん言ってた。純は気持ちの優しい子だから
、母さん見たらそう言い出すだろうって…」


「いいですか?おばさんは許してくれますか?」

雪子
「私は別に関係ないわ」

冷たい…雪子おばさん、なぜこのシーンだけは突き放すのか?いつも優しいのに…。

そして、ここで流れる松山千春の「残照」が最高に雰囲気にマッチしている。いい曲だぁ!


○東京の家(離婚前)回想
みんな乗っている自転車が欲しいとおねだりする純に、父はガラクタの山に捨てられてあるボロボロの自転車を拾って、綺麗に直して塗装まてして乗れるようにしてくれる。

すると持ち主がしゃしゃり出てきて交番へ通報。黒板家に警官が訪ねてきたので、母が平謝り。

黒板五郎は納得いかずに…

黒板五郎
「しかし…しかし、東京では、簡単にモノを捨ててしまうから、充分に使えるのに、新しいもんが出ると簡単に捨ててしまうから、流行でなくなるともうすぐ捨ててしまうから…」

背後ににピンク・レディーの『UFO』が流れているのは、この後の展開のネタ振りのつもりなのか?

純ナレーション
「母さんが、必死にそのあと謝って、その事件はなんとかそれで収まった。それから何日かして、母さんは僕に新しい自転車を買ってくれた。しかもそれは、5段のギア付きで、拾ってきたのとは比べものにならず、僕はやっぱり母さんの方が、父さんよりずっとわかってると思い、だから、父さんは田舎っぺだと思い…だけど、だけど、いまぼくには初めて少しだけ、あの時の父さんの気持ちが分かる。なんでも新しく流行を追って、次々とモノを買う東京。流行に遅れると、まだ使えるのに簡単に捨てちゃう都会の生活。でも、ほくらがこの半年、北海道でやった生活は、明らかにそれと違った暮らしで…ぼくは、なにもしなかったけれど、それでもぼくは少しだけ変わっており…例えば、モノがなにもなくてもなんとか工夫して暮らすんだということ。そういう父さんを少し分かったこと。分かるようにぼくが変わってきてこと。母さん、ぼく、やっぱり明日、北海道へ帰ります。父さんと約束したからじゃありません。裏切ることになるからじゃありません。なぜだか分からない。説明できない。東京の方がいいに決まってる。母さんのそばへもちろんいたい。でも、母さんゴメンナサイ。ぼくは弱い子で、母さんに会ったらきっとまた気が変わる。だから、会わないでまっすぐ帰ります。母さんのことは、とっても気がかりです。だけど、だけど、いま北海道に帰ります。早く元気になってください。それから、こないだ言わなかったけど、吉野のおじさんって、ぼく嫌いじゃない」


○正吉の家
純が東京から持ち帰ったエロ本を正吉と見て楽しむ。

正吉
「おまえ!こういうの見てムズムズしねぇか?」


「するんだよー!おちんちんがデカくなるんだよぉ!」

正吉
「なる!オレもいまなってる!」


「これは果たしてどういうことだよぉー」

正吉
「おれこのまえじいちゃんに聞いたんだ」 


「なんて言ってた?」

正吉
「春だからだと…フキノトウが膨らむのと同じ理屈だと」


「おれのちんちんフキノトウかよ!」

なんて幸せな会話をしてるんだ…
将来のことも、仕事のことも何も考えんと、自分のチンチンのなりたちを真剣に考えるこの年頃が、まさに人生で一番幸福な日々なのかもしれない。

正吉
「なぜか急にデカくなった」


「どうして?」

正吉
「中から変な声が聞こえてきたんだ」


「どんな?」

正吉
「泣いてるような笑ってるような」

今夜試すか?と、あえぎ声を聞きに行くツアーのはずが…まさかUFOを追いかけるという謎の展開に…なんだこれ?ネタ振りのUFOのオチがこれか?

さらに涼子先生がUFOのいた方向から歩いてくる。

なんだこの謎の展開は…?

純が母に会ってきたというのに、螢の反応は一切描かない。それよりもUFOとの遭遇を描くとは…ちょっと理解できない。



第15回

演出:山田良明

○校庭
回旋塔に座る螢たち。

な、懐かしい…。
昔は学校の遊具のド定番であったが、流血者が続出するということで、いまでは撤去の対象になり、ほぼ絶滅してしまったようだ。

ウチの地元では、確か”大車輪”と呼んでいたような記憶がある。決して”回旋塔”とは呼んでなかったのだが、ネットで調べると回旋塔が一番ヒットするから、正式名は、そうなのかな?

いやーしかし懐かしい。どうなったら危険なのか?その危険を回避するにはどうしたらいいのか?という創意工夫を身体で覚えることにコイツの存在意義がありそうな気がするのだが…子供とはいえ、より危険になる方法を、よりスリルがある遊び方を試行錯誤していた気がする。普通に回ってるだけでは何も面白くもないし、全く危険性もないからねぇ。

子供なりのスリルを求めていくと、その結果、危ないことにもなるし、怪我することにもなる。でも、その探究心が大切なんだと思うけど…純粋なものならば!

これがイジメに応用されてしまうのは、よくないけど…。

スマホにYouTubeにニーテンドーDSなり、そんなものばかりに大量の時間を使うより、自分の五感をフル活用することの方が、より豊かな人生となると思うのだが…


第16回

○大友柳太朗演じる笠松杵次のお通夜

大滝秀治演じる北村清吉

清吉
「一町おこすのに二年もかかった…そういう時代に生きてきた人間の土地に対する執着心がお前らにわかるか?」


「…そ、そりゃ清さん、もちろんわかるよ。オラだって昔は一緒にやってきた」

清吉
「ならなぜ土地捨てた?」


「捨てたって…」

清吉
「なぜ逃げ出した?」

男2
「だって食えんべさー!」

清吉
「オラはただ…土地出てったものは、土地にいるもんをトヤカク言う資格はねぇ!そのことだけ言いたかった」

いやーいい!大滝秀治の芝居!人間味あるなぁ。こういう土臭い泥臭い匂いのする芝居ができる人がどんどんいなくなってしまう…。

清吉
「オメェらはわかっとらん。やっぱりなーんもわかっとらん。オメェらだけじゃねぇ、みんなが忘れとる。一町おこすのに二年もかかった。その苦労した功績者を忘れとる。功績者の気持ちを誰もが忘れとる!とっつぁんは確かに評判が悪かった。けど、昔はみんなあの人を、仏の杵次そう呼んどったよ!そういう時代も昔はあったんだ!それが!どーして今みたいになったか?!……みんな、とっつぁんの苦労を忘れちまったからだ。忘れなかったのは、あの馬だけだ。あの馬だけがとっつぁんを分かっとった!その、馬を、手放した時、その、馬を売ったとき!…………(涙が溢れる)」

素晴らしい!いやー見事な演技!大滝秀治たまらねぇ!言葉の裏側に、顔や居ずまいに、背景が滲んでるんだよなぁ…。これは凄い!



第17回

○黒板家
純と螢、ゲームをしている。

五郎
「実はいま、母さんが富良野に来てる。今夜と明日の晩ホテルに泊まってる。今度、父さんと母さんは、正式に離婚することになった。父さんと母さんは、君たちに対してはホントにスマなく思っている。(頭を下げる)許してほしい。君たちは、ここで父さんと一緒に暮らす。一応そういうことに決まった。でも、君たちがどうしても母さんと一緒に東京で暮らしたいっていうなら、それはそれでいい。それは、君らの意思に任せたい。父さん、そのことでとやかく言わない。君らもう大人だ。考えればいい。明日キミたちをホテルに連れていく。ゆっくりしておいで母さんと3人で…」

頭を下げるのが凄い!偉い五郎!子供に対して頭を下げられる親がどれくらいいるだろうか…。

ウチの両親もオレが小学生の頃に離婚したが、謝られたことはない。親父は何とも思ってもないようだ…生殺与奪権を掌握している絶対的な権力者である親が、その権利を投げ捨てる時の感覚は一体どういう感覚なのか?ウチの親父は、当事どういう気持ちでいたのか…



○墓参り
五郎と令子。

令子
「よろしくね」

五郎
「わかってる…あいつらに会いたくなった時には、遠慮なく言ってくれ。いつでも考える。それに、俺の方から連絡するかもしれない。あいつらのことは永久に二人の問題なんだ」

ごろ~!!いやーウチの親父は、こんなこと言ってくれたことあるのか?ねぇだろぅーな?!
永久に二人の問題!いやーいいなぁ!!


螢は会わないのかぁ…

…!!

…っ!

螢っ!

汽車が見える川っぺりを走って母を見送る螢。

やばい!螢の泣き顔みたら涙腺崩壊してもうた…
ここはヤバイ…

さらにこの後もヤバイ…


○黒板家の外
純と五郎

五郎
「純…」


「はい」 

五郎
「螢どうしてる?」


「あいつは寝ちゃった」

五郎
「おまえまだあいつのこと怒ってるか?」

純、薪を焚べる。

五郎
「けどな、人はそれぞれ悲しい時に、悲しさを表す表し方が違う。人前で平気で泣けるやつもいれば、涙を見せたくない。そういうのもいる。螢にとって母さんと別れるのが、辛くないことだとおまえ思うか?なにも言わないでも、もしかしたら螢は、おまえや父さんよりもっと辛くて、だから送りにいかなかったかもしれんぞ。そうだろ?違うか?」

人はそれぞれ悲しい時に、悲しさを表す表し方が違う。いやーいい台詞。そうなんだよね!そういうことなんだよね!螢は螢で物凄く辛いのよ。辛くないわけない!いやー痺れる脚本です。

倉本聰は間のスペシャリスト。いまのドラマとは根本から違う。現代のドラマで、こんな間を取る人はいない。このテンポ感。話さないところ、間の部分がグッときてしまう。いまの若者が見たら、これを退屈だと捉えるのだろうか?間延びした、テンポの悪いドラマと思うのだろうか?



第十八回

演出:富永卓二

北村草太を演じる岩城滉一の裸体がスゲェ。黒々と焼けて筋骨隆々。ビーチボーイズの反町隆史とマジで被ってるな…岩城滉一から反町隆史。しかし現在には、この系譜を継承する男がいない。

草食系男子が、もてはやされてる昨今。みんなして右へならえで同じ穴のムジナみたいなのばっかりで面白くない。
肌の黒いのは、エグザイル系ばかりで…そういうことじゃないんだよなぁ…なんだか悲しいのぉ。

とにかく、この時代のThe男前代表の岩城滉一を堪能してほしい。どえらいカッコイイ…今の若い娘さんたちは、この時の岩城滉一を見ても何にも感じないのだろうか?

原田美枝子も美しいなぁ…アイメイクしてないんちゃう?スッピンに近そうだけど…


○川下り

【返せ北方領土】の旗を掲げる五郎号

なんだか金をかけずに原始的で健康的な遊びを見ているだけで、ほのぼのするなぁ。コロナ禍でミニマムな生活を余儀なくされているし、金をかけないこういうイベントは守っていってほしいなぁと切に願う。

とにかく子供にスマホを与えてしまう親ばかりで…ネット社会に対応するのは早いほうが利点もあると思うけど…どっちがいいとは一概には言えないけど…心が豊かになるのは、やっぱり、身体を通して五感から受ける栄養の方が良いと思うんだよなぁ。


イカダの上でメロンを頬張る若い女の子。メロンを啜る口元をアップにしたり、やたらとエロい演出をする。その女性を見る五郎の目もまたイヤらしい。なんなのこの演出は…古いAVみたいだ。

軽くナンパみたいになってんだけど…
出会い系川下り?児島美ゆき演じるこごみよ。なぜ五郎?同じ歳格好の草太がいるのに…

いい感じになってんだけど…五郎とこごみ。


やべぇまたUFO回?

凉子先生
「先生、宇宙人と友だちだから」



○五郎家・外


「お父さん、凉子先生とUFO見に行っても構わない?」

五郎
「あんまり遅くなるんじゃないぞ」

五郎、車に乗り駅へ。

へ?うそ?ツッコめツッコめ〜!
乗るなよ!UFOに!



第十九回

演出︰杉田成道

UFOと交信できる凉子先生。
螢もやったら交信できたと…

またUFOの回…


○富良野へそまつり

○ボクシングジム
ガッツ石松が演じるボクシングジムの会長である成田新吉と草太のスパークリング。

ガッツ石松のボクシング姿を初めて見る。
ただのボケたオッサンだと思ってたけど、意外と強そうである。

新聞記者の取材に目立ちたがり屋の会長が全部答える。


○スナック駒草(富良野のスナック)
児島美ゆき演じるこごみがフロアレディとして働く。

へそまつりで踊るこごみを見つめる五郎。
そのあとスナックへ行く五郎。

五郎にベタベタするこごみ。

なんかエロいなぁ…下に直結する色気をこんなにも放てる人いまいないなぁ。


○中畑家
中畑和夫を演じる地井武男。
酔っ払って訪ねる五郎。

田中邦衛の酔っ払い芝居!最高!


○黒板家・外

離婚届のコピーが送られてきたのを雪子に見せる。

五郎
「簡単なもんだょ…これで雪ちゃんも他人に、なっちまったよ。ちょっと街まで飲みに行ってくるわ」

そしてスナック駒草へ。

男ってもんは、こういう時には、どうしようもなくスナックに行くもんだ。そうだ。こういうことが分かる歳になってよかった。


○駒草

こごみ
「どうしたんですか?暗い顔して。酒場でいけません。もっと明るい顔しなさい」

ごもっとも。酒場で陰気臭いやつは面倒くさい。でも明るい顔ができないから酒場に飲みに来てるんだけどね…

こうやって隣で聞いてくれたら気晴らしにはなるわな!やはり酒場は絶対的に必要なわけで…飲食店ばかりに自粛要請、時短要請を押し付けるのは、どうなんでしょう?

それなら平等に、全てを一ヶ月停止してくれ。

中島みゆき『髪』がスナックのBGMで流れる。いい!スナックに似合うねぇ!

こごみ
「どこで知り合ったの?」

五郎
「東京で…俺が勤めてたガソリンスタンドの…すぐその隣が美容室でさ…へんな、変なこと聞くけど、あんた初めて東京出てきたとき、スパゲッティバジリコなんて、どんなもんか知ってたか?」

こごみ
「スパゲッティバジリコ…」

五郎
「ぁぁ」

こごみ
「どうかなぁ…知ってたかな…知らなかったんじゃないかな?」

五郎
「オレ…そんなもん、聞いたこともなかったんだよ」

こごみ
「スパゲッティバジリコがどうしたの?」

五郎
「………つくってくれた…」
(言い方ッ!最高かよ!)

こごみ
「彼女のウチで?」
(笑ってしまう児島美ゆき)あんな言い方されたら笑っちまうよ。

五郎
「アパートで…」

こごみ
「おいしかった?」

五郎
「嬉しいっていうより……感動しちゃってさ…スパゲッティ…バジリコなんて…もう…その名前に感動した」

こごみ
「わかるわ私」

五郎
「わかる?」

こごみ
「私わかる」

五郎
「東京で…オレ…女に…スパゲッティ…バジリコ…」

ママからカラオケを勧められる。
『銀座の恋の物語』を、こごみとデュエット。
デンモクとかテレビ画面に出る歌詞を見ながら歌うような時代ではない。歌詞が載ってる広辞苑のような厚みのある本を見ながら歌う。超クラシックスタイル。二人で覗き込むように歌詞を見ながら歌わなくてはならず、自然と密着度が高まるという素晴らしいシステム。これはこれで風情を感じる。

しかし、スパゲッティバジリコでオチた五郎ちゃんアンタはやっぱり最高だよ!


○結婚披露宴(回想)
『銀座の恋の物語』を令子とデュエット。

歌い終えて…
披露宴を思い出して涙ぐむ五郎。

見つめ合う五郎と、こごみ。

こごみ
「ねぇ…お店終わったら、私の部屋来ない?…スパゲッティバジリコ作ってあげるから」

(ひょぉー!なにこの誘い文句?!こんな気の利いた文句で誘ってくれるフロアレディなんて存在するのか?そもそも高齢化が進みまくってスナックに若い女性は皆無。大ベテランのママが鎮座ましましの年季の入った店ばかり)

いやぁ後世に残る名シーン!!
【スパゲッティバジリコ】を最大限に引き出してあげたシーンになっているのではないだろうか?!これ以上のシーンを書ける人いるのか?そもそも、スパゲッティバジリコを使おうとするセンスね。素晴らしい!最高っ!


○こごみの部屋

五郎
「ずいぶん…本があるんだなぁ…」

こごみ
「本読むの趣味なの…」

五郎
「か…い…こ…う…けんか…」

こごみ
「とち狂ってるのいま…開高健に。開高健と高中正義」

五郎
「高中正義っていう作家は知らねぇな」

こごみ
「高中は音楽よ、素敵よ、聴かす。あなた…本読む?」

五郎
「あんまり読まねぇな」

こごみ
「一番最近どんな本読んだ?」

五郎
「じゃりん子…チエかな?」

こごみ
「五郎チャン大好き!(抱きつく)」

開高健にとち狂ってるっていう女性と出会ったことないなぁ…しかも高中正義かぁ…すげぇ組み合わせだなぁ…こんなスーパーコンボかます女性は国宝級だろ?

オレもスナックで出会いたいなぁ…開高健と高中正義なら、どちらも対応できるけど…でもきっと、じゃりん子チエと答える人がいいんだろうなぁ…開高健の話をしても別に盛り上がる気がしないもんなぁ…

しかし五郎が、じゃりん子チエとはねぇ…
その選択も素晴らしいなぁ。


第二十二回

○黒板家(夜)
父の誕生日プレゼントに山葡萄を採って、瓶に詰めている純と螢。

五郎帰ってくる。

五郎
「純、来てほしくなければ断りに行けばいい。父さん断ってきてやる。ただし…(水を一口)こごみさんが、飲み屋に勤めてる人だからイヤだって考えは、父さん許さん。人には…それぞれいろんな生き方がある。それぞれが、それぞれ、一生懸命、生きるために必死になって働いてる。人には上下の格なンてない。職業にも、格なンてない。そういう考えは、父さん許さん!」

素晴らしい指導教育。


第二十三回

令子死す。
この時代は、まだまだ自宅葬が主流だったのかな…自宅葬に呼ばれた経験もないのだが…
葬儀場よりも、その人の住処で、故人を送ることの方が理にかなっている気はする。

なんだか葬儀場よりも随分と味わい深いものに感じる。


○令子の部屋
お骨になった夜。

弘子
「一日中台所に入りっぱなしでさ」

京子
「そういえば昔、令子さんよく言ってたじゃない?!」

弘子
「そうそうゴキブリ亭主で恥ずかしくなっちゃう」

雪子
「お茶どうぞ」

京子
「だけど一日しかいないってのはどうかね?」

前田
「ありゃないな」

京子
「いくらもう正式に別れたっていったってさぁ」

弘子
「そうよ、吉野さんどうなんのよねぇ?」

京子
「あの人そういう言い方すれば、全然責任ない立場じゃない?!それなのに、ああやって友達まで連れてきて一生懸命徹夜までしてさぁ」

前田
「誠意が違うよ、だいたい誠意が」

弘子
「だいたい子どもの気持ち考えたら一緒に来るのが当然じゃない?!それなのに遅れてきてまたパァーっと帰っちゃうの!」

前田
「結局よっぽど憎んでたってことかね?」

清吉
「それは…違うんじゃないんですか?…深い事情はワシ知らんですよ。けど、それは違うんじゃないんですか?五郎は、早く来たかったんです。純や螢や雪ちゃんと一緒に飛んで来たかったんです。あいつがどうにも来れなかったのは…恥ずかしいがこのぉ…金なんですよ。金がどう~にもなかった。あの晩あいつ、ワシとこに金借りきて、恥ずかしいがウチにもなくて、近所の親しい農家起こして、大人一人と子供二人、千歳までの代と、飛行機の切符…やっと工面して、で、発たせたです。翌日、中畑っちゅう…アレの友達がそれ聞いてびっくりして銀行に走って、でもあいつそれ受け取るの渋って…だからねぇ…あいつ汽車で来たんですよ。一昼夜かかって汽車で来たんですよ。飛行機と汽車の値段の違い、わかりますかあなた?1万とちょっとでしょ?けどその1万とちょっと、ワシら稼ぐ苦しさ考えちゃいます!何日土に這いつくばるかってね。おかしいですか?私の話。…それとね、これも言えるんですよ。天災に対してね、諦めちゃうんです。何しろ自然が厳しいですからね、そりゃ。諦めちゃうことに慣れちゃってるです。例えば水害にあったとき、今年の北海道はめちゃめちゃにやられましたよ。で、あの、めちゃめちゃにやられてもうダメだっていう時に、テレビ局来てマイク差し出されるとヘラヘラ笑ってるです。もう~だめだぁちゅうてヘラヘラ笑ってるですよ。諦めちゃうです神様のしたことには…そういう、習慣が、わしらにはついとるです」

ここの大滝秀治が最高!最高なんだが…よくよく振り返ってみると…アレレ?となんだか様子がおかしい。

清吉さんは五郎よりも先に来たよね?!自分が来る分のお金があるなら、そのお金を五郎に貸してあげなさいよ!清吉さんの関係性としては、むしろ来なくてもよくないか?アナタよりも五郎でしょ?必要なのは!

しかも到着した晩に小腹が空いたと、雪子を誘って、屋台でおでん食べて酒もおかわりしてだよ…
仏さんと吉野の二人分のおでんをお土産にして持ち帰って、そのお金も普通に清吉が支払ってたんですけど…アナタお金めちゃめちゃ持ってるやないの?!なら、五郎に貸したりーや!

ここの整合性がね…大滝秀治の名演技によって、ないがしろにされて誤魔化されている。ここを良しとしてしまうのは、ちょっと気持ち悪い。


仏さんの前で、めちゃくちゃ言う前田、弘子、京子…これも、そこまで言うかなぁ?ちょっとなぁとは思いつつ、そいつらにバシッと言ってくれる清吉はめちゃくちゃ気持ち良いのだが…五郎を清吉が、かばえばかばうほど、はて?となる不思議なシーン。でも好き。やはり大滝秀治の言い方がね最高です。



最終回

演出 富永卓二


○中畑家
台風の接近により停電。
中畑和夫が外から帰ってくると電話をかける。
ん?停電ちゃうの?なぜか電話は通じてる。
糸電話なのかな?


なにこれ?
最終回という名のダイジェストやないの。

この終わり方は…ちと盛り下がるのぉ。
Fitzcarraldo

Fitzcarraldo