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チェルノブイリのcamusonのレビュー・感想・評価

チェルノブイリ(2019年製作のドラマ)
4.5
チェルノブイリ原発事故の真相をドキュメンタリーではなくドラマとして再現。爆発後、炉心上部の屋根が吹き飛び、黒煙をもうもうと吐き出し、変な色の光を発し、制御棒の破片などの瓦礫が散乱する絶望的な事故現場を、リアルに再現したことが、まずは偉業だと思います。

冒頭アバンではある男の自殺からはじまり、本編に入ると、時は1986年4月26日に巻き戻され、爆発が発生し、視聴者は、その後の現場の混乱状況に放り込まれます。これを体感できるだけでも、映像化の価値は絶大です。

最終話(第5話)まで見ると、混乱でよくわからなかった状況が、だいぶ把握できるようになり、続けざまにもう一回、第一話が見たくなります。序盤をあえて説明過多にせず、映像の力で語らせた手法は成功だと思います。

爆発の直接の原因は、運転中の炉を使用した実験にありました。緊急時を想定し、タービンの慣性を利用して所内電力を確保する可能性を探るため、あえて低負荷運転を行ったのですが、これが炉内状況の不安定化を招き、さらにいくつかの実験重視の強引な判断が重なり、核分裂反応が急激に進んで炉心爆発に至ったようです。この経緯を詳しく知らなかったので勉強になりました。

福島みたいな事故を予防するためにやったと言えなくもない実験によって、よりにもよってチェルノブイリ級の事故を招いてしまったというのですから、皮肉なものですね。とはいえ、運転開始前に終わらせておく予定の実験だったとのこと。

実験責任者の副技師長が悪役を一手に引き受けています。たしかにコイツがメチャクチャ腹立たしく、見てて殴りつけたくなるような役柄で、役者もよく演じています。しかし問題はそこまで単純でもないような。いや作品中でもそこまで単純化してるわけでもないのですが、とにかく、このバカが糞過ぎて・・・このオタンコナスのパーソナリティだけの問題として捉えてはいけないと、自戒せねばなりません(この役柄のどこまでが演出で、どこまで真実なのかは興味深いです。)。

原発の安全神話は東西問わず原発推進には付きものだと思います。民主主義国家であったとしても当然隠蔽は起こるわけですが、一党独裁国家となると、そのえげつなさがやはり半端ないというか。オルタナティブが一切ないがゆえに説明責任が一切発生しないし、それゆえに、居直ってしまうのですよね。後は時間が解決するというか、実際は何も解決はしないのですが、風化は避けられないという。

しかし、火事の野次馬って万国共通でいるものなのね。「みんなで原発事故がよく見渡せる〇〇橋まで行くけど一緒に来ない?」とか、お茶目でおっちょこちょいな市民が多く、止める人が誰一人いないのは、やはり一党独裁による情報不足も少なからず関わっていると思われ。娯楽が少ないのも関係していると思われ。

原発のことに無知な消防士を呼び寄せて消火活動をさせて、重度の放射線傷害を負わせて殺してしまうなども、やってることはだまし討ちに近く、共産党一党独裁でなければ、もう少し違った対応になると思われ。公式発表の死者がたった33名というのが逆に怖いです。
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