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ロキ シーズン1のMASHのレビュー・感想・評価

ロキ シーズン1(2021年製作のドラマ)
4.0
『ワンダヴィジョン』がエミー賞にノミネートされるなど絶好調のMCUドラマシリーズだが、6話構成のテンポや他作品への布石に気が散っていまいちハマれずにいた。「やっぱりMCUは映画かな」と思っていたところでの『ロキ』の公開。個人的には今までで圧倒的に面白かった。前2作で物足りないなとか惜しいなと思う部分の大半が解消されていて、最後までワクワクドキドキしながら見れたシリーズだった。

⚠︎一応ネタバレはしてないつもりだけど、何も知らずに観たいという人はストップで


『エンドゲーム』において主要な時間軸から外れてしまったロキ。TVAという謎の組織に消されそうになるものの、なんやかんやである事件の捜査に協力することになる。まず主人公がロキということで他のドラマに比べてもスタート地点が有利だ。なぜならロキはMCUで最も愛されているキャラと言っても過言ではないからだ。MCUの内4作品でメインキャラとして登場しており、さらにロキは他のヒーローやヴィランと比べてもとキャラが立っている。ずる賢くて、おしゃべりで、残酷で、優雅で、小物で、どこか憎めない。そして今作はそんなロキの人間性をより深く掘り下げる物語になっているのだ。

この作品の良いところは主に3つ挙げられる。それは続きが気になるストーリー展開、キャラの描き方、そしてテーマの一貫性だ。まずストーリー展開。『ワンダヴィジョン』も斬新な発想ではあったものの、正直謎が謎になっておらず展開的にダレてしまっていた。今作の展開はほとんど読めない。次に何が起こるのか、どんなキャラが出るのか、彼らの行く末が気になってしょうがない。TVAとは、タイムキーパーとは、ロキが選んだ結末は。まぁ最後まで解決しない部分があるというMCUの悪いところはあるものの、これ自体が"分岐点"みたいなもんだし、エンドクレジット後のおまけで納得できる範疇だ。

そしてキャラクター。ロキは言わずもがな、サイドキャラも魅力的。ロキに協力を依頼するメビウスは一からキャラを作っているというより、それを演じるオーウェン・ウィルソンの魅力をベースに作られている。そのため彼の最初からキャラが立っている。前半はロキとメビウスの会話が非常に多いのだが、楽しんで見ていられるのはそれぞれの役者、キャラとしての魅力があるからだろう。そして、途中で登場する新たなメインキャラ。単独ではすごく良いキャラというほどではないが、ロキとの会話による対比で互いのキャラをより深く掘り下げていき、最終的にはしっかり感情移入できる存在になっている。他にも1話しか出ないサイドキャラにすら愛着が湧いてしまうなど、キャラクターという面において頭一個抜けている。

そしてテーマ性。時間軸という複雑な設定がありながら、常にロキのアイデンティティの模索という部分にフォーカスが当たり続けている。ロキが出会う人物は全て彼を映す鏡のような存在となっており、彼のアイデンティティについてを対話の中で見出していく。悪戯の神となった訳、嘘や裏切りの裏にある感情、生きていく上の目的、そして歪んでしまった愛と信頼。"変異体"になってしまったという始まりが、この一つのテーマ性にちゃんと繋がっているのだ。時間軸やら多次元宇宙といったこれからの布石の中で、一つのドラマとして一貫性を持てていたという部分がこの作品の一番好きなところ。

アクションのクオリティもお世辞にも高いとは言えないし、会話が非常に多いというのは評価が分かれるところだろう。だが、こういう対話によるキャラの掘り下げこそドラマシリーズならではの良さだ。ストーリーとキャラクターに時間を贅沢に使い、役者の演技とストーリー展開で観客の興味を惹く。正直まだ6話という長さの扱いがうまくいってない部分も感じるが、かなり良くなってきていると言える。

『ワンダヴィジョン』や『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』と比べるのはなんか違うということは分かっている。それぞれの作品ごとにテイストを大きく変えているし、映画に比べ挑戦的だったからこその違和感もあっただろう。だが、個人的には『ロキ』における規模の大きなストーリーにゆっくりだが丁寧なキャラ描写にこそ、マーベル作品としての良さとドラマシリーズとしての良さが出ていたと思う。ただ、『ロキ』と同じような作品ばかりを作って欲しいというわけではない。当たり外れや好みじゃないのも出てくるだろうが、それでもドラマシリーズはこれからも色んなスタイルに挑戦していって欲しいものだ。
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