なんやかんやで1年と8ヶ月ぶりのMCU作品。初のドラマ作品とあって、個人的には大きな期待と不安を抱えながら観ることとなった。結果どうだったか?
普通。いや、これは決して悪い意味ではなく、普通に楽しめるミニドラマだったなという感想。なぜ少しガッカリしているようなトーンかというと、部分部分は全MCU作品の中でもずば抜けて良かったりもするからだ。にも関わらず、続きを意識しすぎるMCUの悪い癖やドラマシリーズを作り慣れていないのがモロに出てしまっている。
まず良かった部分。やはりアイデアという一言に尽きるだろう。往年のシットコムを1話ずつ再現していく中で、なぜこのような世界が誕生したのかという謎を徐々に明かしていくスタイル。それぞれの年代ごとのシットコムの特徴を非常に上手く捉えながら、回を重ねるごとに不穏な空気が流れ始める演出が見事。特に第5話のヴィジョンが異変に気づくシーン。あそこの演出はこのシリーズの特徴を上手く活かした演出だったと思う。少し無理矢理ではあったが、なぜシットコムなのかということもちゃんと意味をなしているというのも非常に好感が持てた。
そしてテーマ性もまた良い。愛する人を失い続けたワンダの心の深い闇。『エンドゲーム』が"愛"ということを一つの大きなテーマに置いていた分、彼女の境遇はより悲しみを増す。一度は心の闇に囚われた彼女が自らの過去と対面することで、また新たなアイデンティティを獲得していくという流れは、今までのアメコミ作品と一味違う面白さを持っている。そして嘘の世界の中にある真実の愛を見出すという終わり方は、この作品にふさわしい結末だ。ラストシーンではちょっと泣きそうになったほど。
ただ、それだけ良い所がありながら、全9話の配分の仕方がめちゃくちゃであるが故にちょっとイラッとしてしまう。シットコムに拘りすぎるが余り、9話しかないにも関わらず物語が動き出すまでが遅い。中盤でやっと別視点からの世界も描かれるが、最後まで観るとあの部分は必要だったのかと疑問に思ってしまう。少なくともあの敵は間違いなくいらなかったと思う。
そして何より色々と引っ張りすぎ。一見謎が謎を呼ぶ展開という感じだが、実際そんな大した謎もないし解決もそんなにされない。この世界がいったいなんなのかは最初から大体分かるし、誰が黒幕かなんて明らかだ。しかも黒幕の目的もいまいち不明瞭という。他にも引っ張りすぎて収まり切っていない部分もちらほら。
おそらく映画に繋げるための繋ぎ的な立ち位置であったはずなのに、思ったより面白くなるポテンシャルを持った作品になったのがこのシリーズの良かった点でもあり欠点でもあるのかも。明らかにただのキャラ紹介の部分もあるし、最後の方のアクション要素はシリーズの空気感に余り合っていない。ただ、ワンダとヴィジョンというサイドキャラをメインにまで持っていった上に、シリーズでも屈指の名キャラクターに仕上げたのは流石だし、アイデアやビジュアル、演出も言わずもがな。だからこそ1話1話に無駄があるのが勿体ないと感じてしまうのだ。
チャレンジ精神あふれる意欲作であったのは間違いないが、ちょっとドラマシリーズという枠に上手くはめ込めなかったという印象。これからも以上な数のドラマシリーズが計画されてるようだし、おそらく徐々にこの形にうまくフィットしてくるだろう。とりあえず第1弾として中々良い滑り出しだったと言える。次の『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』はどうなんだろう?(予告編を見た限りちょっと心配…)