HicK

ワンダヴィジョンのHicKのレビュー・感想・評価

ワンダヴィジョン(2021年製作のドラマ)
4.6
《体感する悲劇のサイコスリラー傑作》

【MCU最高傑作】
映画と合わせても、MCU内で最高傑作のひとつだと思う。脚本、演出、演技、全てが絡み合って、理解する作品では無く、体感できる作品になっていた。

【現実逃避のシットコム】
シットコムの内容は本筋とは関係ないように見えるが、ほぼ全ての展開が「ワンダが幼い頃から抱いていた理想」「現実の彼女自身が欲するもの」「悲劇的な事実と反対の出来事」で統一されていた。既に亡くなっている夫、叶うはずのない平凡な家庭、産めるはずのない子供たち、など現実と180度違う設定が織り成す温かい物語だからこそ、彼女の痛みが伝わってくる。社会からの自己隔離、自分の世界に引きこもる姿は、通院も出来ない重度の鬱患者のようだった。

【ワンダの潜在意識】
彼女は負の感情に飲み込まれ能力に支配されてしまった結果、現実改変をしている自覚が無い。そのため潜在意識によってシットコムの展開が生み出されるのが面白かった。例えば、劇中で言及されていた「子供の出演者がいない理由」同様に、犬のスパイキーの登場も「死んだ者は蘇らせてはいけない」という彼女の倫理感が無意識に働いた結果。どこかで自分を目覚めさせようとしていたのかもしれない。

【コマーシャル】
また、CM演出もその一つ。「CM=スキップしたい場面(見たくないもの)、集中力が途切れる場面(現実逃避の制御が行き届かない)」というかのように、過去のトラウマがコマーシャルとして流れ、それが最終回の伏線にもなる。特に「シビルウォー 」での彼女の失敗を表した『「ラゴス」好きで失敗したんじゃ無い。しょうがないでしょ?』が好きだった。また、未来を暗示した予言めいたものもあり面白かった。『「ネクサス」(マルチバースの門の名)それはDr.の協力が必要。次に進む覚悟ができたらどうぞ』とか。

【効果的なメタ的演出】
シットコムの場面は"編集ミス"を多用し、いろんな意味でゾッとさせられた。第1話の「やめて」の連呼を始め、巻き戻し、NGテイクの削除忘れ、ぶつ切り編集など実際のメディアのタブーを利用したメタ的な心地悪い演出。アガサの「今の撮り直しでしょ?」も怖い。また、シーンによって画質だけでなく画角が変化するのも良かった。モノクロ放送はブラウン管サイズ、後の放送はワイド(ジャスト)、現実はシネスコなど効果的。

【多彩な演技】
エリザベス・オルセンの躁鬱っぽい演技や、悲劇の中でもエリザベス本人に近い多彩な表情や表現が魅力的だった。もう演技の幅がジェットコースター的で一種の"カオス"。見応えがあった。アガサ役のキャスリン・ハーンは舞台演劇のような台詞回しが印象的で、エリザベス同様に真実と"演技"の振れ幅が素晴らしい。

*以降ネタバレ
【悲劇のオンパレード】
愛する人の亡骸が組織に利用され、自身もパワーに乗っ取られ、無実の人を巻き込んでしまう。結局、ヴィジョンを3度も目の前で失い、子供たちとも一種の死別、住民たちや世論からも嫌われる。悲劇のオンパレード。シットコムでの「理想像」との落差がありすぎて悲しい。この事件の望みは何か?と問われたワンダが「もう望みは手に入れた」と返すセリフも印象的。しまいには、住民たちに「痛みを押し付けないで」と言われてしまい、X-MENのヴィラン「スカーレット・ウィッチ」の誕生としてこの上なく同情できる前日章だった。

【ただ、】
"ニセトロ"はガッカリなのよ(笑)。何かの伏線だと願う。あとは"白ヴィジョン"に関しても今後の伏線だったが、そもそも「死」に関して軽い印象があったMCUで、「また復活させるのか」というのが正直な感想。その他、ルーシーを始めアベンジャーズ絡みの"史実"を知っている人間が、ニュース等で彼らの事件を知ったというより「MCU作品を見ていた」という印象のあるセリフばかりだったのが気になった。

【総括】
サイコスリラー展開としての面白みがあり、ゾッとするメタ的なホラー演出も魅力的だった。シットコムの内容自体も面白く、温かみも感じる。その温かさとワンダの悲劇の背景の落差や、彼女の内面が反映されたTV内のストーリーも秀逸。そんな素晴らしい演出も相まって、悲劇にばかり見舞われるワンダの現実逃避として説得力があった。彼女の能力を活かし、心情を効果的に伝える方法をみごとに見出したイマジネーションには脱帽。まさに体感する物語に。自分にとって、MCU内でも最高傑作のひとつ。
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