なべ

ウォッチメンのなべのレビュー・感想・評価

ウォッチメン(2019年製作のドラマ)
4.4
 アラン・ムーア不在のウォッチメンの続編などウォッチメンじゃない。脚本のリンデロフはこのドラマシリーズを、コミックの「リミックス」だと公言してるくらいだから、二番煎じな駄作に違いあるまい。そう確信してた。だが、漏れ聞こえてくる評判は賛辞ばかり。どういうこと?
 その答えが知りたくて、輸入Blu-ray(日本語字幕あり)を購入。なまじザック・スナイダー版の映画化がよかっただけに、観たいような観たくないようなで、なかなか再生できないでいた。折しもコロナ禍で観るものがなくなり、ついに順番が回ってきたというわけだ。

 物語は前作のラストから30数年後。オクラホマ州のタルサが舞台。そう!黒人が大虐殺されたあのタルサです。勘のいい人ならこの時点であっ!と気がつくはず。原作・映画版は冷戦が世界を崩壊させるトリガーとして、それを見張るヒーローたちの正義のあり様が描かれていたが、本作での崩壊へのトリガーは人種差別。

 ぬあああああああぁぁぁぁーー!最高じゃん!リンデロフ、あんたすごいよ!

 人種差別主義者のテロが世界を破滅させるだなんて、すごくウォッチメンじゃないか!
 完全なる続編ではないにせよ、それでも原作や映画と同じ世界線の話。老いたオジマンディアスや巨根の(モロ出しだよ!)Dr.マンハッタン、二代目シルクスペクターの成れの果て(ローリー・ブレイク捜査官)も出てくる。それどころかフーデッドジャスティスの正体も明らかになる。
 しかも!なんと!映画版ではまるっと端折られた巨大イカも登場するよ。NY市民の半数を死に至らしめたあの1985年の衝撃波がちゃんと描かれるんだから。今、「なんだと!」と席を立ったあなた、観たいでしょ。
 
 警察官が黄色いマスクで顔を覆い、人種差別主義者・第七機兵隊もマスク(ロールシャッハ柄)を被っている。もちろん主人公のアンジェラも仲間のウェイドも覆面ヒーローだし、Dr.マンハッタンですら道端に落ちている自分のマスクを被って登場する。現代にアップデートされたウォッチメンはマスクだらけの大覆面祭!(ポロリもあるよ)。コロナ禍で全人類がマスクを付けてる今、マスクの意味…匿名性なのか集団性なのか、それぞれが隠したいものに思いを馳せながら観るのも一興かと。

 ファンならご存じだろうが、虚実入り混じった架空のリアルもウォッチメンの見どころの一つ。そもそもがニクソン政権下、Dr.マンハッタンの実戦投入でベトナム戦争に勝利した世界線での話。現政権はロバート・レッドフォードが大統領を務めている。レーガンでなくレッドフォードってところがニヤニヤするよね。オネストなリベラル政権なんだろうなとか想像しちゃう。けど、そのオネストでリベラルな黒人への補償政策が差別主義者の憎悪を加速させたわけで、そういう細やかなディテールの一つひとつが世界観をよりリアルに構築している。
 念のため断っておくけど、映画版を観ないでこの新生ウォッチメンを観るのはやめた方がいい。もちろん単独で鑑賞できるつくりにはなっているのだが、設定や背景を把握するのは骨が折れるし、何よりオリジナルに対するセンスのいいリミックス感が楽しめないだろうから。
 本来なら原作コミックを読んでもらうのが一番なのだが、今さらあの分厚いコミックを読むのはちょっとキツイ。アメコミの最高峰にしては絵が下手だし、章ごとに長々と説明される背景を読むのもしんどい。だからせめてコミックをダイジェスト化した映画版(できればアンカットバージョン)を観てからの方がいい。もし映画版がおもしろくなかったらドラマ版は観なくていい(本当はおもしろいと思えるまで繰り返し観てほしいけどね)。
 結局アベンジャーズはパーマンやゴレンジャーと変わらんなとマーベルのガキっぽいヒーローものに飽々してる方、そろそろDCのウォッチメンに手を出してみましょうよ。
なべ

なべ