松原慶太

ストレンジャー〜上海の芥川龍之介〜A Stranger in Shanghaiの松原慶太のレビュー・感想・評価

3.9
大正時代、大阪毎日新聞の特派員として、芥川龍之介は四ヶ月のあいだ中国に滞在した。
その紀行文(「支那游紀」)をもとにして、脚本家の渡辺あやが多少のフィクションを交えてドラマ化したもの。映画でないことが勿体無いほどの質の高い番組。

まず「魔都」と称された当時の上海をみごとに映像化している点が素晴らしい。これ眺めるだけでも価値がある。

邦題(タイトル)がダサいけど、たぶん「パリのアメリカ人」的なことを言いたかったのでは…。

原作はいま読むと、少々の外国人蔑視表現もあり、なかなかの微妙な紀行文ではあるが、当代随一の流行作家であった芥川が、上海を訪れて、現地の演劇を鑑賞したり、思想家や政治家にインタビューしているのは事実。モチーフとしてはおもしろい。

渡辺あやは、芥川がストーカー気味の女性ファンから逃れるためにこの地にやってきたという設定を付け加えているが、これは実際にあった話に近いのでまんざらフィクションでもない。

また芥川がインタビューした若い思想家が、のちに第一回の共産党大会を主催した、など時代状況とリンクするようなエピソードもあり(これはたぶんフィクション)、知らず知らず歴史のうねりの狭間を見ているような興奮もある。

アヘン戦争に負け、西欧の植民地と化した中国の現状を憂うるとともに、その将来を予感し、また日本の行く末をぼんやりと案じ、けっきょくはその数年後に自死してしまう芥川の心中の描写は、大きくいえば間違ってはいないとおもう。なかなか考えさせられるドラマであった。
松原慶太

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