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ミセン-未生-のCinemanのレビュー・感想・評価

ミセン-未生-(2014年製作のドラマ)
4.0
「ミセン-未生-」 全20話
キム・ウォンソク監督
2014年 韓国
鑑賞日:2023年12月16日 u-next

幼い頃からひたすら棋士を目指していたチャン・グレ(イム・シワン)。
棋士としての素晴らしい才能に恵まれてはいたものの父親が他界したためプロ棋士への道をあきらめた。
貧乏なので大学にも行けず、兵役を終えた26歳になっても昼夜バイトの掛け持ちをしながら母親と2人で暮らしていた。

【物語の概要】
ある日、グレは母のコネで韓国有数の大手総合商社にインターン(見習い)として入社できた。
学歴は中卒、会社員経験ゼロでコピーの取り方すらわからないグレは有名大卒で何ヵ国語も話せるバリバリのエリートたち10人ほどと2週間の研修生活に加わった。
圧倒的にハンディのあるグレ。
同期の仲間からは、
「あいつは専務のコネ入社なんだ、いいよな~」
「どれだけ金積んだんだ?」
「出世は目に見えてるよな羨ましい」と後ろ指をさされ誰一人友達も出来ない。昼食も社食でいつも一人。
時間がたつにつれてグレが貧乏で中卒だという噂が広まると今度は仲間たちからのいじめが始まった。

2週間の研修期間の最後には仲間と2人でチームを組んで社長や会社上層部を前にプレゼンを行う。
そのプレゼンに通らなかれば社員にはなれない。
誰もグレとはコンビになりたがらない。
足を引っ張る奴とは組めないからだ。
ところが何と同期で一番シーチョーな男がグレにコンビを組もうと申し出た。

彼とのコンビのプレゼンでみごと合格したグレは入社できたが、彼だけ2年間の契約社員として入社だった。
しかも配属されたのは営業部のメインから外れた社員2人だけの営業3課。

外国語も話せずコピー機の使い方も分からない何のスキルもないグレ。
無駄口を叩かず生真面目で頭も良く誠実だが何の戦力にもならないグレは会社では使いものにならなかった。

そんなグレが徐々に輝き始めた。
それは彼が極めた囲碁の世界の価値観で会社の業務、人間関係、上司とのやりとりを分析し、毎日日記にその日に起こったことを記しそれを囲碁の戦法に置き換えて解決策を考え抜いていたからだ。

グレが囲碁で培ったずば抜けた洞察力がじわじわと仕事の役に立ち始めた。
グレと営業3課のオ課長(イ・ソンミン)、キム代理(キム・デミョン)の3人は絶妙なチームワークで数々の難題を解決するようになり社内から脚光を浴びるようになった。

グレには3人の同期入社がいた。

幼い頃からの情操教育でエリート街道まっしぐらのチャン・ベッキ(カン・ハヌル)。
グレとコンビを組んだシーチョー男で社内事情に地獄耳なハン・ソンニュル(ピヨン・ヨハン)。
既に研修期間に会社の書類棚に埋もれていた企画を練り直して一人で契約までこぎつけ莫大な利益を産んだ容姿端麗で頭脳明晰な紅一点アン・ヨンイ(カン・ソラ)。

彼ら4人がそれぞれ配属された課でどんな仕事をやらされたのか。
これでもかこれでもかと次々に降りかかる上司からのパワハラ、セクハラ、いじめ、教育。
単に一人の男の会社での成長記録ではなく、
巨大な商社にからむ陰謀や悪事や利権争いやいじめの数々を乗り越えて成長する4人の姿を通して“会社”という化け物の姿を描いた作品です。

サラリーマン経験のある人には「サラリーマンあるある物語」としてかなり楽しめます。
セクハラな上司やら上層部に媚びる中間管理職やら下請けから賄賂を受け取る上司やら部下に責任を転嫁する上司やらの魑魅魍魎の暗躍の網の目をくぐりながら大人に成長するグレの2年間を描いたみごとなドラマです。

面白いドラマが成立する要素は3つ。
よく練られた脚本、独特の映像感覚の語り口調を持つ監督、脚本や監督の描いたキャラクターを膨らまして可視化する才能を持った優れた役者。
本作も見事に興味深いキャラクターが次々に登場する。
特にグレの上司オ・サンシクを演じるイ・ソンミンのキャラクターづくりはみごととしか言いようがない。
「結構なお手前でした」としか言いようがない素敵な作品で12月4日から観始めて12月16日に全20話を観終わりました。

【Trivia & Topics】
✥本作の概要。
2014年10月から12月にかけて監督のtvNで放送されたTVドラマ。原作は同名のウェブ漫画。
日本ではMnet、BSジャパン、囲碁・将棋チャンネルで放送された。

✥エンディング。テーマ曲。
その回の物語に応じてエンディングの楽曲が違うのが面白いな~。

✥新入社員カン・ソラ。
同期新入社員カン・ソラを演じたのはアン・ヨンイ。
頭脳明晰、眉目秀麗、性格の優しいカン・ソラはこれ見よがしな派手さはないけれど色っぽくてスタイル抜群で素敵だ。
『サニー 永遠の仲間たち』に出ていた女優だった。
https://filmarks.com/movies/3946

✥上司の言い分。
ぼくのサラリーマン生活はたった7年。
激動の時代に創業2年目の新進気鋭のレコード会社で過ごした時の思い出を一つ。

1970年。
自由に生きていいんだとビートルズに教えられて浮ついていた頃の入社。
入社そうそう始まったのが“ニューロックキャンペーン”。
全社員がアル・クーパーが自由の女神に扮した重たいペンダントを首にかけていた。

朝から晩まで音楽を聴いていても仕事だから文句を言われない。
新興会社だから古いしきたりや因習がない。
情報を仕入れに来た評論家たちと「っじゃ、お茶でも」とカフェに行きもらった領収書は必要経費。
定時出社には厳格だったし明け方まで深夜放送プロモ‐‐ションで都内を駆けずり回ったが残業代はどうなるの?など考えたこともなかった。
こんなに毎日が楽しい上に給料が貰えるなんてここは天国だと思った。

そんなある日同期のS君と直属の上司に呼ばれた。
「あのな~、あんたたちその長髪を切らないの」
「ネクタイもしないの?身だしなみをちゃんとしなさい」
「ここは会社だぞ」
ぼくとS君はネクタイもせず肩までの長髪だった。
「とにかく私は長髪が嫌いだ。すぐに床屋に行って来い」

翌日ネクタイを結んだ。
でも長髪はそのままだった。
ネクタイは定時を過ぎればほどけるけれど切った髪は戻らない。

数日後もっと上の上司に2人は呼び出された。
「髪は切らないんだね」
「いいよそのままでも。ただし自分がやっている仕事に自信があるのならばだけどね」

翌日髪を切った。
私は長髪が嫌いだという感情的な上司の言い分には従えなかったけれどこの上司の一言は胸に突き刺さったからだ。

暖かい言葉を期待していたこの会社の入社式の社長の訓示は「君たちは当分先輩たちの売上を食いつぶすんだ。会社が沈まないように漕ぎ手となっている先輩たちが稼いだ売り上げだ。一日もはやく君たちも会社の漕ぎ手となって下さい。会社というのは運命共同体なんです」だった。

ぼくは創立から四年目で業界一位に上り詰めたこの会社で過ごした7年間は忘れられない。

【5 star rating】
☆☆☆☆
(☆印の意味)
☆☆☆☆☆:超お勧めです。
☆☆☆☆:お勧めです。
☆☆☆:楽しめます。
☆☆:駄目でした。
☆:途中下車しました。
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