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柳生一族の陰謀のkuronoriのレビュー・感想・評価

柳生一族の陰謀(2020年製作のドラマ)
3.8
観ました。

錦ちゃんに喧嘩売ってますね(笑)。
錦ちゃんの但馬守は、他の出演者全員が現代劇の芝居をしてる中で、わざと独りだけ「時代劇の芝居」をしているのですが、吉田鋼太郎さんは、独りだけ「舞台の芝居」をしてみせることで、異質な感じを出しているのだと思います。
面白かったです。
また「柳生もの」が観たくなっちゃいました。

と、いうわけで、時代劇の柳生ものの歴史を簡単にまとめてみたいと思います。

もともと講談とかでは十兵衛よりも弟の又十郎(宗冬)が主人公として扱われていたようです。

柳生が幕府の隠密という設定は古くからあったようですが、剣客としての隠密でした。宗矩は柳生を束ねる頼りになるボスというイメージです。

明確に「…柳生の本体は…忍びじゃ」という設定を持ち込んだのは、五味康祐の未完の小説「柳生武芸帳」です。これは群像劇でして、登場人物たちはみんな陰謀を企んで動いています。「柳生武芸帳」はマクガフィンで、只の武芸を記入した巻物の体をしているのですが、実は「重大な秘密」が封じられているので、各集団が血眼で奪い合うというストーリーです。
様々な集団が暗闘するのですが、柳生一族は決して主役ではなく、どちらかというと冷酷非情なヒールなんですね。「柳生武芸帳」の宗矩は、何が本音で何が嘘なのか、目的が何処にあるのか、深すぎてその深淵が見えない怪物的キャラクターになっています。十兵衛も宗矩との対立的な設定はなく、武芸帳死守の歯車として機能しています。

何度か映画化されていますが、東映で柳生側(というか十兵衛)を主人公に置き換えて作られたシリーズが人気を博しました。ここで十兵衛を演じたのが、近衛十四郎で、今の柳生十兵衛のビジュアルイメージを形作ったのが彼です。
松方弘樹や目黒祐樹のお父さんで、歴代時代劇役者チャンバラ上手い人ランキングの上位3人には必ず入ってる人です。
初期は両目開いた明るい感じのキャラから始まって、片目になって普通の眼帯に、更に原作者の五味康祐から勧められて柳生鍔の眼帯に、衣装も徐々に黒っぽくなって忍び装束っぽくなっていきます。あのとんでもなく長い刀は、十兵衛というより、近衛十四郎のトレードマークです。(実際の新陰流の刀は小振りな方がリアルだと思います。)近衛十四郎の「柳生武芸帳」はTVシリーズにもなりました。十兵衛の殺陣として考えられた逆手二刀斬りは、時代劇の「逆手切り」の元祖のひとつです。

「柳生一族の陰謀」は明らかに原作の方の「柳生武芸帳」を意識して作られています。深く広くひろがり過ぎてわけが分からなくなってしまった「柳生武芸帳」の権謀術策渦巻く世界を、「家光の三代目襲名」「柳生家の復興」と宗矩の目的を解りやすくする(その分、怪物度は下がってますが)ことで、映画としてまとめてるのだと思います。
千葉十兵衛は、近衛十兵衛のビジュアルイメージを引き継ぎつつ、より忍び装束によっていっています。眼帯は柳生鍔ではなく、普通の刀の鍔になっています。特徴は小刀がわりの「兜割り」です。
殺陣も、身体能力を活かしたもので、従来のチャンバラの立ち回りとはベクトルの違うアクションになっています。

何故今「柳生一族の陰謀」なんだろう?とは思いつつ、あらためて映画版も観て比較してみたくなっている私です。
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