めしいらず

寺内貫太郎一家のめしいらずのレビュー・感想・評価

寺内貫太郎一家(1974年製作のドラマ)
4.2
昔読んだ向田原作(脚本のノベライズ?)と同じに、笑いながら泣いてしまうような稀有な人情喜劇。朝昼晩と悶着し通しで、それでも寝るまでには全てが丸く収まって終わる一家のすったもんだの日常。家族や雇い人、出入りの人々を巻き込んでの大立ち回り。筋の曲がったことが大嫌いな昔気質の気短さ。でも人の悲しみに手を差し伸べずにはいられない人情家。そんな貫太郎の人間的な魅力が結局は人を束ねてもいる。現代っ子で父に逆らってばかりの息子周平。皮肉屋で揉め事をまぜっ返すのが大好きな祖母きん。心優しくも気が利かない母里子。両親を亡くし一家に飛び込んだ年若い女中ミヨ子。そして幼い頃に父の職場で不慮の事故に遭い今も脚を引きずる娘静江。静江への家族の複雑な思いが物語の通奏低音のように常にあり、人情喜劇を立体的に見せるのがさすが向田邦子の名脚本。一人ひとりの描き込みが丁寧でどの登場人物も好きにならずにはいられない。独り者の石工タメ公の孤独が沁みる第5話、怪我させた娘への父の消えない後悔が悲しい第15話、静江の恋人上條が貫太郎への礼節を貫く第18話、地域の祭の日と重なって母の一周忌を言い出せずにいたミヨ子を慮った貫太郎の粋なはからいが泣かせる第20話が特に印象深い。あまり丁寧でない台詞回しが却って芝居っぽさを感じさせなくてとても良かった。個人的には毎回ある歌の場面(昔のテレビドラマによくある演出)は要らないと思う。
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