やみいしゃ

鎌倉殿の13人のやみいしゃのレビュー・感想・評価

鎌倉殿の13人(2022年製作のドラマ)
4.6
若いころは歴史モノや時代劇に全く興味がなく、大河ドラマを初めて完走したのは真田丸が最初、というアラフィフです。

子供ながらに親はなんで時代劇などが好きなのだろうと思っていました。
そんな昔のことなんてピンとこないし、現代劇のほうが全然面白いじゃないかと。

太平洋戦争が今から80年前。
10歳の頃の自分であればそれは40年前。遥か遠い昔のことだと思っていた。
50歳になった今、80年前のそれは、自分の生きてきた時間の倍にも及ばない、ごく近い過去だと思うようになった。
時が経つほど絶対的に遠ざかっていく過去なのに、感覚的には逆にどんどん近づいてくるんですね。
江戸時代だって、たかだか数代前。戦国時代は、源平の頃は…歳を重ねるごとにどんどん過去が身近になってくるんです。

そうか、時代劇が面白いってこういう感覚なのか。
知識を得たくなるのもあるけれど、何より過去がどんどん身近に感じてくるからなんですね。
身近になることで自分自身と地続き感、確かなリアリティーが感じながらも、現代では考えられないような様々なことが起こる。
歴史モノというのはすごく良質なファンタジーのようなものなんだ、と最近ようやく気づきました。

そういう感覚で歴史モノを楽しみ始めている自分にとって、ちょうど「真田丸」や「鎌倉殿の13人」は、つまり三谷幸喜脚本の歴史モノというのは、すこぶる相性が良いのです。

彼の得意なコメディタッチな部分というのも実はとても重要で、戦争だ、暗殺だ、謀反だ、考えられないことをしている時代の人たちを普通に描くと、常に眉間にしわを寄せて生きてるようなステレオタイプな描き方になりがちです。
三谷さんにかかると、家族で冗談を言い合うひととき、友情、嫉妬、恋、そういう日常劇を明るくしっかり描くので、「あぁ、たかだか自分の十数代前の人たち、心や中身は全然変わらない同じ人間なんだよなぁ」という、歴史上の人たちに対して今まで思ったことのない圧倒的な親近感のようなものが芽生えてきます。
そうやって登場人物たちとの距離がグッと近づいたところで、今の私たちには想像できないような、その時代だからこそ起こる残酷で悲しい出来事の数々が描かれるので、ガツンとくるんですよね。まさにドラマチックになるんです。

優れた喜劇は優れた悲劇にもなるというか、光があるから影ができるというか。
リアリティ、フィクション、コメディ、群像劇、悲劇…多面的に要素が満載の本作はとても面白かった。

一年間の長丁場十分楽しませてくれた上で、最終話があんな衝撃のラストなんて…
史実のある大河ドラマと言う形態で、面白いだけでなく「説得力のある驚き」まであるというものは凄いです。さすがは三谷幸喜。

今やってくれてよかったと思います。若い頃の自分だったら絶対この良さにここまでは気づけなかったはず。