七沖

鎌倉殿の13人の七沖のレビュー・感想・評価

鎌倉殿の13人(2022年製作のドラマ)
4.8
源平合戦はドラマチックで好きだが、鎌倉幕府が成立してからの歴史はあまり見どころがなくて面白くないな…とずっと思いこんでいた。
そんな考えが、このドラマを通して一変してしまった。
当たり前のことだが、歴史って人間ドラマなんだよな、ということをこの作品を見てつくづく実感した。
何も理由なく歴史の教科書で習うような乱や事件は起きない。たくさんの人の愛情や欲望の結果として起きるという当たり前のことが丁寧に描かれた作品だった。

今まで三谷作品といえばユーモラスな群像劇というイメージが強かったのだが、この作品はコミカルな場面もあるにはあるが、対立やすれ違いがシビアに描かれていた。
シリアスなシーンばかりだと単に暗いドラマになってしまうから、脚本・三谷幸喜というのはこれ以上ない抜擢だったんじゃないかと思う。

映像的に華があるのはやはり源平合戦だが、それが終わったあとの幕府内の権力争いからも目が離せない。
小栗旬が演じた北条義時は必要とあれば悪事にも手を染める人物で、スターウォーズで言ったらダースベイダーを主人公にしているようなものだ。
もちろん歴史に善も悪もなくて、それは見る側の主観次第なのだが、ここまで味方側を粛清して孤立を深めていく主人公は見たことがない。
物語の前半では周囲に振り回される善人として描かれているからこそ、後半のダークサイドへの転落は義時の責任感の強さ、そして人間としての弱さを自然と感じ取ることができた。
良い人を良い人のままに描かず、良い人だからこそこうなった、として悪事も正面から描いているのがこのドラマの印象的なところだと思う。

最終回は圧巻。
大河の主人公というと、激動の人生を振り返って若い世代に後を託して穏やかに逝く人も多いなか、義時は…。
ダースベイダーが死んだあとはルークがその想いを受け継ぐように、義時のあとは泰時が継いでいく。
新たなる希望を示しつつも、あくまで義時だけに焦点を当てて描き切られた、非常に密度の濃い大河だったと思う。
七沖

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