ねまる

鎌倉殿の13人のねまるのレビュー・感想・評価

鎌倉殿の13人(2022年製作のドラマ)
4.4
三谷幸喜の大河ドラマ恐るべし。
他の大河には無いような余白のエンタメ演出と、
立ち直れない絶望展開が交互にやってくる。
伏線の張り方、エモの仕掛け方が尋常じゃなくて、かつて笑っていたネタが、後に悲劇や、涙を呼ぶものになっていく。キャラクターへの愛着が心にアザを作る。
坂東武者が立ち上がり、平家の世を終わらせようとする希望に満ちた序盤を観た後では、たとえどんな暗雲にぶつかろうとも、もう引き返せない。
全てを知っていても。1年間かけて苦しめられ続けるゲームオブスローンズ 。傑作でした。

登場人物がこんなに多いのに、誰一人霞むことなく、キャラ立ちし愛くるしい歴史上の人物たち。
登場する誰もが一つの命として、役者として輝く。

大泉洋as源頼朝
「全部大泉のせい」って小栗旬がマスクに書いた通り、このドラマでの源頼朝が憎くなる。
歴史の教科書でも、『平清盛』でも、こんなに憎く思ったことはない。よく知らずとも源氏派なので。
このドラマの大元は「吾妻鏡」は北条が幕府を継ぐ正当性を書いた歴史書だからね。
憎いながらも大泉洋が演じていることで愛らしさが残るからこそ家臣が頼朝についていった理由もわかる。

青木崇高as木曽義仲
木曽義仲は都で乱暴狼藉を働いたみたいな印象なのに、これも裏返ってしまった。
都の作法を知らないあまり、真っ直ぐな思いが通じず、政治の世界に陥れられていく姿が切ない。
だからこその"義"の親子。

8代目市川染五郎as源義高
「良いお顔」プリンス。
16.17歳頃の彼を映像で残しただけでも快挙なのに、この色気を完璧に生かした役柄。
短い出番ながら、大姫の辿った悲劇を深く痛感させる存在感だった。
蝉の抜け殻を見るたびに思い出すのだろう。

佐藤浩市as上総介広常
1番の尊称「武衛」を、親友くらいのニュアンスだと思って使ってる広常。
馬を引く人は見た目がと言われれば、良い着物を着ようとする広常。
都に上った際「武衛」に恥じないよう必死で字を練習する広常。
吾妻鏡の記述だけではどうとでも書けそうな広常を、心の広く、強く、そしてこんなチャーミングな人間であると描写し、失意の底に突き落とす三谷幸喜。佐藤浩市のラストの表情が脳内にこびりつく。

菅田将暉as源義経
「経験がないのに、自信も無ければ何も出来ない」
という台詞が彼を語る。
のちに義時パパが「では自信がない時はどうするか、経験を積む」と義経に言うのも良い。
誰もが知るヒーロー義経の、伸びやかな魂と天才ゆえの狂気が良かった。
九郎が首級になって戻ってきた頼朝のシーンが好き。

石橋静河as静御前
菅田将暉と対峙するのに、三浦透子as里も素晴らしいのだが、静の強さがベストマッチ。
「静よ静よと繰り返し私の名を呼んでくださった、昔のように懐かしい判官様(義経)のいる時代に昔を今に戻したい」

中村獅童as 梶原景時
生き方を間違えた才人。
『新撰組』の「呼ばれてなくても来るのが捨助でございますよ」って愛くるしかった彼はどこへ?
一切表情を出さなかった男が己を振り返って涙したのが印象的だった。

佐藤二朗as 比企能員
佐藤二朗にずっとコメディの印象があって、北条の敵感が薄いように感じてたんだけど、これは役者の印象すら変える演技で驚かされた。怖い。

市原隼人as 八田知家
出番は多くないんだけど、確実にムンムンする色気にやられた。殺伐としていく鎌倉で、俺は俺だ、を貫ける強さにかっこよさがあった。ところで、三谷幸喜は市原隼人のこと色気要因だと思ってる。

梶原善as 善児
オープニングロールに名前があるだけで、戦々恐々としたのは初めてでした。
オリジナルの都合の良い立ち位置ではあるんだけど、それをこの中で存在させたことがすごい。
そんな彼でさえ、改心していくことで、鎌倉幕府の恐ろしさを感じさせていたのだと思う。

堀田真由as比奈
八重さんを失ったばかりの小四郎には、賢くて強い子だと思ったが、ブラックになった義時には似合わないよく出来た子だった。
堀田真由の落ち着いた台詞回しが、育ちの良い品と、頼りになる妻として、わずかに残る小四郎の良心のようで良かった。

金子大地as 源頼家
魑魅魍魎なベテラン役者たちを相手に、未熟な鎌倉殿を演じ切った金子大地から目が離せなかった。
演技の圧のかけ方と、こっちがゾクっとするような表情と特にその目力に惚れ込む。
「災いの種」から月火と引きずり、水木で少し元気になるも、金土と「修善寺」での展開を想像して吐きそうになるほど私の心を1番傷つけた人物。
ロスは非常に大きいが、最期まで武士の棟梁らしく、全く引かず、善児と白刃で斬り合って勝つなんて。ドラマなんだから救いがあっても良い。

若干、修善寺以降盛り下がったように感じたのは、私の頼家ロスかもしれないけど、この辺りを超えることは無かったかなぁ。

中川大志as畠山重忠
初回の登場から、畠山が死ぬの見たくないなとぼんやり思っていた。THE武士の鏡。24歳ながら、小栗旬や山本耕史と同年代として振る舞う円熟味、存在感がベテランで驚かされた。中川大志を過小評価していたし、この役を出来ると与えた三谷幸喜の采の勝利だろう。
10年以上前から中川大志を観てきた視聴者として、御家人たちが畠山と過ごしてきた日々とも重なり、涙を流しつつ、天晴れなラストだったなとも感じた。三谷幸喜さん、次の大河ドラマは中川大志と金子大地でやりましょう。

杉田雷鱗as畠山重保
これは予言ですが、次の大河までに、杉田雷鱗くんはびょんびょん伸びて、もっと大きな役を演ると思います。24歳が演じる40代の息子を子供っぽくではなく、むしろ19歳には見えない覚悟と高潔さが大人っぽくみせて、最高の親子でした。

坂東彌十郎as北条時政
オンベレブンビンバ、とかいう謎のタイトルが、まさか大姫(孫)の呪文「おんたらくそわか」だった回、全然違う呪文を唱える北条家の皆さんの姿を観て、北条もごく普通の仲の良い家族なんだよな、そしてしいさまはずっとそのままなんだよなとしんみり。しいさまの愛嬌が好きでした。

山中崇史as平賀朝政
胡散臭い〜。けど、絶妙な胡散臭さが大好きだった。りくの娘と結婚したのにりくに花とか持ってきて取り入ろうとするところとか。生田斗真と2大胡散臭い京野郎コンビ、胡散臭いとはいえWで死はもらい事故というのもまたコーエン兄弟っぽいというか。

横田栄司as和田義盛
愛すべきお馬鹿さん。畠山と仲が悪くて無駄に対抗意識を抱いていたり、ダークな展開になってからも変わらない感じで唯一の癒しポイントになっていた。でも、最期は義時の策略では無く、実朝の発言がいけなかったと思うよ。

生田斗真as源仲明
寒い、寒い、寒いんだようー。
こんな悪い顔ばかりする生田斗真珍しいでしょ。こんな役に生田斗真をキャスティングできるこの大河ドラマがすごい。

柿澤勇人as 源実朝
うりんさん。実朝に子供出来なかった理由の解釈にゲイをもたらしたのは偉大。同じような悩みを持つ人は前の時代にも後の時代にもいる、といった通り巫女を使ったメッセージも良い。実朝後半だけは珍しく源氏ではなく義時の肩を持ったものの、大階段のシーンは圧巻だった。

寛一郎as 公暁
実朝に比べて出演時間は短いものの、これは間違いなく源氏の血筋という存在感。金子大地以降の出演者では誰よりも良かった。復讐に取り憑かれた虚しきプリンス。北香那演じる母の生きていて欲しいという気持ちも、あの頼家を観たからこそ共感出来る悔しさも、こんな形で歴史に名を残したことも。源頼朝を祖父に持ち、源頼家を父に持つ苦悩。この世の誰よりもこの台詞がうまく言えるだろう。

瀬戸康史as北条時房トキューサ
愛嬌がある男。やっぱり人生愛嬌があると楽しそうだよなぁ。愛嬌欲しい〜。
時政と同様、トキューサはトキューサらしくいてくれたことの安心感。嘘はつけず、上皇は知らず、餅は丸められず、でもそこにいるだけで場が和む。
プルップ

坂口健太郎as北条泰時
みんなの希望が泰時に集約していくのがあまりに美しい。幼かった頃の義時にそっくりで、あの頃の純粋さを持った子。そこに強く母ガッキーの芯を感じる。奥さんの福地桃子、良き友のきづき、良い仲間にも恵まれている。
彼が御成敗式目を制定する終わりが何よりもこの物語の結末にふさわしかった。

菊地凛子as のえ
義時3人目の妻。何故のえの本性を見抜けなかったのか。それは義時がのえのことを観ていなかったから。関心を向けなかったから。悪女のように描かれつつも、真っ黒になった義時の横ではむしろ哀しくみえた。最終回の義時との対峙、菊地凛子恐るべし。

山本耕史as三浦義村
三谷作品における山本耕史はズルい。新選組!の土方歳三も、この役をもらえる山本耕史がズルい。でも、物語を進めるキーマンとして、主人公の友人として、そして場を和ませるキャラクターとしてハマってる。ダークになっていく物語の中でも何度も笑わせてくれたのは彼のおかげ。飄々と生き抜く小賢しいやり口も彼がやればクスリと笑える。

小池栄子as 北条政子
このドラマのもう1人の主人公。頼朝の妻である責任を背負いつつ、家族想いであり続けた政子。娘、息子がみんな悲劇的な死を迎えるなんて、母としてこんな苦しみがあろうか。何度も挫けそうになっているけど、最期義時の人生に終わりをつけることを選ぶ結末。その引き金が頼家だったことも、結局は納得がいって、本人は知らなかったであろうこのドラマにおける金子大地の役割の大きさに驚く。

小栗旬as北条義時
小栗旬が主役を張っているからこそ、これだけの役者が、これだけ伸び伸びと演じられたのだろうなと、これが日本一の座長力。
歴史の教科書を読んでいた頃と同じ。やっぱり私は源氏が好きで、北条は嫌い。北条のドラマを1年間観てもやっぱり憎い。
最近は明智光秀といい、教科書で真ん中にこない人が主人公になるのかも。違う角度から見た歴史。それもいい。
どんどん冷徹さを帯びながらも、人間らしさを捨てきれない義時が良かった。
泰時の御成敗式目で終わらせた方が、綺麗だったとは思うが、主人公の目の前が真っ黒になる終わりを選ぶとは。1年間お疲れ様でした!
ねまる

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