味噌汁

池袋ウエストゲートパークの味噌汁のレビュー・感想・評価

池袋ウエストゲートパーク(2000年製作のドラマ)
5.0
 異国の預言者が残した予言は当然的中せず、残ったのは〈失われた10年〉と呼ばれるほど落ち込みを見せた経済の落ち込みと先の見えない将来だけ。※1窪塚洋介氏演じるキングを筆頭とした池袋のカラーギャング『G-Boys』がギリギリボーイズの略称であることから察するに、当時この作品を支持していた若者たちが生きる場所が困窮していた事がうかがえる。引きこもりや援助交際など社会病理とも言える歪みが蔓延する世の中で、ギリギリを生きる青年たちに鬱憤を晴らす術を表現するひとつの答えを見出したアンサー的作品。

 青果店を営む母の元で暮らし、甘いルックスでありながらもインポテンツに悩まされる元ヤンキーの主人公マコト。直情的な性格やこういう人たち特有の言動は我々が想像する範疇を超えたインパクトとしては弱いが、彼の口癖でもある「めんどくせぇ」は現実社会にある様々なしがらみに対しての感情を代弁していて若者が共感し易いキャラクターになっている。対してマコトと幼馴染みでカラーギャング『G-Boys』を仕切るリーダーのタカシ。金髪に白一色の衣装が特徴的で、独自のカリスマ性から池袋西口に居る多くの若者たちからキングの愛称で知られる。少し古臭いイメージが漂うマコトと頭の先から足の先までイマドキなキング。対照的な2人だからこそ少ない共通点で繋がる関係性はどこか惹かれるものがある。刑事である吉岡や安藤などの魅力もあるが、それはまた別の機会に記述したい。

 2人の若者を中心としたこの池袋西口、ひいては池袋全体を巻き込んだこの物語が伝える答えとは何か?主人公マコトはトラブルシューターとして活躍していく内に自身が忌み嫌う〈面倒くさい〉事件に巻き込まれていく。傍観者だった立場から一変して母親のマルチ商法被害やカラーギャングの抗争に中心人物として身を投じる事になる。もしこんな窮地ともとれる状況に陥ったら、普通の人ならまず怒りを露わにするだろう。どうにもできない事への最後の抵抗として足掻くはず。しかしマコトが肝心な時に見せるのは決まって静観である。向かってきた物事に対して否定したり、抵抗したりする訳でもなくあえて受け入れる。ヒロインであるヒカルの真実に気づいた時なんかはモロにそうだった。機器や情報の目まぐるしい成長に比べ人間社会、モラルやマナーといった人の心に関する事はそれほど発達していない。街と人、両者の関係性が共存しなくなっているからこそ起こる社会問題に否定するのではなく受け入れる、つまりキレない姿勢というのが本作のアンサーではないのか。…とまぁなんとなくそれなりに述べてみたけれど、原作小説のキャッチコピーを考えるに間違いではないのかな?

※1 この年代の後から〈いざなみ景気〉なる好景気が見られるが、少なくとも本編開始時の池袋には兆しがみられていない。
味噌汁

味噌汁