Masato

THE LAST OF USのMasatoのレビュー・感想・評価

THE LAST OF US(2023年製作のドラマ)
4.6

ゲーム史上最高評価を獲得したPS3末期の傑作ゲームがドラマ化。

かれこれ数百本ゲームをプレイしてる自分のオールタイムベストゲームがラスト・オブ・アス。オリジナル版もリマスターもリメイクも10年にわたって擦れるほどプレイしていて、思い入れが強すぎるため原作厨的な不安もあったが、願い通りかなり良かった。

再現度が高い。ドラマと聞いて予算や規模関係が気になったが、ドラマでも1話数十億円という最高峰の予算が掛けられていて見応えバッチリの映像になっていたし、変にまとめ上げられることもなくゲームとさほど遜色ないボリュームでストーリーを描けたのも良かった。まさにドラマ全盛期だからこそ為せた超大作ドラマでこのサブスク全盛期まで温められていて良かった。

マーベルみたいに大胆なアレンジは施されておらず、基本的には原作に忠実でそこに原作補完的な要素が組み込まれているような感じなので、原作プレイ済の人には終始想定通りの展開が続くから特別良かったというよりかは、あのゲームをプレイした感動が異なるアプローチで蘇ってきたというのに近い。

ゲームを再現した演出もさることながら、ドラマならではのオリジナルな展開も良かった。

3話のゲームではサラッとしか触れられてなかったビルとフランクの関係性がハッキリと描かれていて、孤独を貫く男が出会ったパートナーとの生活が事細かに描かれていたオリジナルの展開は原作ファンとして嬉しい。ゲームでもビルとフランクのホモセクシャルな関係は仄めかされていた。

「パワーオブザドッグ」に似た男性性による抑圧のようなものをサラッと描いててすごい。彼が保守的なサバイバリストだったのに反して料理ができて芸術に長けていたという描写だけで彼はジェンダー規範に囚われ続けていたというのが分かるという秀逸さ。
そして、ジョエルたちに「守るもののために死ぬ気で闘い抜け」と伝えて後の展開を活かす言葉を残すあたりが素晴らしい。紛れもなく愛のエピソードである。

5話のサムとヘンリーも出自が明らかになってキャラがより明確に。新たなキャラを迎えて軍を翻したならず者たちも描かれた。けっこう長めの二人とのエピソードもここは映像化すべきという箇所をしっかり捉えてうまい具合にまとめ上げられていて流石。

6話はトミーとジョエル、そしてジョエルとエリーの関係をより強固にする重要な話だっただけに、コンパクトにまとめ過ぎ感は否めない。1,3話みたいに70-80分のランタイムで濃く描くべきだったかもしれない。ただ、みんなゲームで感動したであろうエリーのセリフが丸々使われてて良かった。そして、原作にはなかったジョエルの弱々しい一面が見れた。失うという怖さがエリーへの攻撃的な言葉で出ていたジョエルだが、涙や不安として描かれたのは新しいジョエル。

7話は傑作DLCレフト・ビハインドの回。モールでキャッキャしてるエリーとライリーがカワイイ話でそれを完全再現してたのは最高。エリーが心に傷を負ったライリーとの友情と恋。この時の生き残ってしまった孤独感がジョエルを助けようとする心情を物語っていく。「どうせ、みんなおかしくなっちゃうんだから」改めていいセリフ。

8話、エリーの孤軍奮闘する豪雪地帯のエピソード。日本版では規制されたあのシーンもマイルドな表現になって再現されている。運び人と荷物という関係を超えた絆がすでにある。ここからPart2のテーマにも似通った、生きるために人を殺すしかない世界での不条理な憎しみの連鎖が出てくる。どんな世界になっても、人を殺してしまったら必ずそのツケがやってくるという哀しさ。避けられないSIN(罪)。そして、生きるために恥ずべき手段をとったというのは…デビッドもジョエルも同じだということの複雑さ。見事に描かれていた。

最終話。エリーの母親役はエリーの声を担当したアシュレイジョンソン。ゲームだとエリーと出会い始めのころに会話で少し触れられた程度だったが、今回はマーリーンの心境を伝える意図も含めて映像として登場。マーリーンとエリーの邂逅はこんなだったのか。その他はほぼゲーム通り。良かったが、配信なんだからコンパクトに纏めずボリューム感マシマシでやってもいいと思う。ストレンジャーシングスみたいに。シーズン2、しんどい話になるけど期待。


全体的にエリーに対するジョエルの態度が最初からわりと悪くなくて、冷たくあしらってたところから家族同然の愛へと変わる過程がゲームよりやんわりしていたのは個人的に惜しい。ゲームだと結構冷たくて、だからこそ最後のジョエルのエリーに構い出すところが可愛く感じる。しかしながら、ドラマならではの主人公二人以外の人間からも描かれていく本作のテーマは見事で、ドラマならではの新しい複数軸のラスアスを見れた。

ゲーム版が至高であることには変わりないが、ゲームをやらない層、例えば自分の父親なんかが代わりにこれを見てくれて、ラスアスの良さを分かってくれるから本当にありがたい。父親にゲームしてくれって言っても無理だし。色んな人たちに本作の良さやゲームだからといって舐めるなという気持ちを理解してもらいたい。

なんで原作のゲームが素晴らしい評価を受けて長らく多大な人気を得てきたのかが物語の側面から理解してもらえたら嬉しい。エリーとジョエルという爆発的な魅力を持つキャラクターによる奥深いドラマ、2023年のアカデミー賞作品賞群にも通ずる、親(or親だった)という人間の苦悩やあり方を描いた作品だ。
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