パトリシア・ハイスミスのリプリーシリーズ(全5冊)はたびたび映像化されている。
NYCに住むチンケな詐欺師だったトム・リプリーが、幸運と持ち前の才能を活かし、殺人や身分詐称を繰り返しながら、欧州で華麗に大金持ちになっていく話である。
本作はその第1作を映像化したもので、ルネ・クレマン監督、アラン・ドロン主演「太陽がいっぱい」がもっとも有名だが、マット・デイモンとジュード・ロウ主演の「リプリー」(観たはずだが覚えていない)という映画もある。
本作はたぶんそこらへんのストーリーがさんざんこすられてきたこと前提で、あえて全編モノクロで、原作に忠実な、上質だが地味〜な映像化を目指しているようである。
主演のアンドリュー・スコット(「シャーロック」でモリアーティ教授を演じた英国人)の存在が、その「上質だが地味」な感じをまさに体現している。なんというか若いころのゲイリー・オールドマンからケレン味を排して地味にした感じ。
本作のもうひとつの特徴は、原作の隠しテーマである「ホモセクシュアル」が比較的分かりやすいかたちで描写されていることである。
かつて淀川長治は「太陽がいっぱい」鑑賞時に、同性愛のテーマを指摘したものの、同時代ではスルーされたらしいが、さすがの慧眼だと思う。ちなみに原作のパトリシアハイスミスも、主演のアンドリュー・スコットも、同性愛者。
じっとりとした湿度のあるサスペンスの佳作だと思う。