ルーク大佐

リプリーのルーク大佐のレビュー・感想・評価

リプリー(2024年製作のドラマ)
4.3
人殺しの天才画家カラヴァッジョがイタリア国内を逃避行した事実とリンクさせて、詐欺師リプリーはカラヴァッジョと同様にローマ、ナポリ、シチリア島などを転々と逃げ回る。同名の映画のクオリティをはるかに上回る、ピカレスクロマンの傑作だ。

カラヴァッジョは興味深い画家であり、もっとも好きな画家のひとり。彼の名画では『トランプいかさま師』と『聖マタイの召命』に惹かれる。

リプリーは金持ちの友人を流れのままに撲殺する。このゆるさが怖い。追っ手の警察や友人らを煙に巻くために、殺した友人の名前でパスポートをつくり、2つの名前を使い分ける。もともとリプリーはうだつの上がらない小者の詐欺師なのだが、犯罪を重ねるうちに自己成長を遂げて詐欺スキルを高めていく。

自らを天才画家と臆面もなくダブらせ、天才の歴史的絵画を鑑賞するために友人の金を巻き上げ、のうのうと国内を旅行する。調子に乗って絵をかいたりもしていたが、駄作なのはいうまでもない。

このように説明すると、リプリーのような悪人は許しがたい存在になるものだが、そういう気持ちはあまり湧きあがってこない。いつのまにか彼の無軌道な行動に理解を示し、ハラハラと見守る立場にさせられるのだ。

彼は軽度のサイコ気質があるものの、慢心によって完全犯罪を実行することができず、犯罪が露呈しそうになったりするので、いつしかリプリーをフォローする気持ちになる。

このあたりの演出はさすがだし、リプリーを演じるアンドリュー・スコットのダメ男的演技も際立っている。
最大のピンチを迎えたとき、彼が思いついた悪知恵にはうなった。
カラヴァッジョになりきれたために、悪魔的な知恵が浮かんだのだろう。

友人殺しの逃亡劇を天才画家になぞらえた脚本が素晴らしい。
カラヴァッジョファンやイタリアの街並みが好きな人にはたまらないストーリーだ。前半は多少ダラダラするが中盤からは緊張感がみなぎってくる。ラスオチも意外な展開で終わる。まさに傑作の名に恥じない。
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