kkkのk太郎

ジ・エディのkkkのk太郎のネタバレレビュー・内容・結末

ジ・エディ(2020年製作のドラマ)
3.4

このレビューはネタバレを含みます

パリにあるジャズクラブ「ジ・エディ」で起きた殺人事件と、それに付随する悲喜交々な人間模様が描かれたヒューマン・ドラマ。

第1話、第2話の監督を務めたのは『セッション』『ラ・ラ・ランド』の、オスカー監督デイミアン・チャゼル。

エッフェル塔、凱旋門、ルーヴル美術館など、様々な観光地で知られる芸術の都・パリ。
しかし近年ではそういった観光の名所というよりも、人種間の対立に起因するデモや暴動が多発する街、というイメージが定着してしまっているように思う。

移民の受け入れを積極的に行ってきたフランスは人口の1割以上を移民が占める。
移民一世と移民二世を合わせた数になると人口の約25%に上るというのだから驚きである。
もちろん、移民を広く受け入れるというのは人道的に素晴らしいことだとは思うが、増え続ける移民に対する労働環境や制度が十全だとは言い切れず、それに伴い人種差別や宗教的対立が引き起こされ、結果として国内の分断が進んでしまっている、という事実があるようだ。

2023年現在、警察官による黒人少年射殺事件が発生し、フランス全土に暴動の波が押し寄せた。遺族が「暴力は望まない」といった内容の声明を発表したことでこの暴動は沈静化していったが、今後も余談を許さない状況なのは確かだろうし、ウクライナや中東で戦争が続き、多くの難民を生み出しているこの時代、今後様々な国や地域で同様の事件が発生することは想像に難くない。

日本の難民認定率は0.3%程。欧米諸国に比べると驚くほどに低い。また入管法の改正により、難民申請者を強制送還するハードルはまた一段と下がった。
このように難民の流入を徹底的に阻止したい政府の思惑がある一方、技能実習制度の名の下で東南アジアの人間を労働力として国内に引き入れている。技能実習と言えば聞こえは良いが、その実態は人権を軽視した強制労働のようなものであり、制度の内容については度々問題視されている。
難民は排斥したいが国外からの労働力は欲しい。この政府のダブスタ的態度、これに関して我々日本国民はもっと真剣に考えないといけないと思う。

…なんの話をしてたんだっけ?
あっそうそう『ジ・エディ』のことだったわ。
本作はパリを舞台にしていながら、華やかな観光地は一切出てこない。
物語は「バンリュー」という、移民たちが暮らすパリ郊外の低所得者向け地域で主に展開される。
登場人物もほとんどが黒人やアラブ系などの有色人種であり、主人公であるエリオットもアメリカからパリへと渡ってきた黒人である。
煌びやかな観光地は一切出てこず、またシャンゼリゼ通りを歩くパリジェンヌのような人物も登場しない。
これまでイメージしていたパリとのあまりのギャップに初めは驚くが、これが今のパリのリアルな姿なのだろう。

『セッション』(2014)、『ラ・ラ・ランド』(2016)に続き、またしてもジャズを扱った作品を監督するデイミアン・チャゼル。
本作の後に作った『バビロン』(2022)もジャズってたし、本当にジャズばっかりやってる男である。
とは言え、このドラマではチャゼルは脚本を手掛けていない。どちらかというと今作でのチャゼルはオリジネーターというよりも雇われ監督っていう立場に近い感じなんだと思う。

ドラマをが我々観客に語りかけてくるのは、「コミュニケーション」の大切さ。
本作の登場人物たちは皆腹に一物持っており、それを誰かに相談することなく一人で抱え込んでしまう。
それが積み重なって事態がどんどん最悪な方向に向かっていくのだが、物語が進むに従って各キャラクターたちはそれぞれの胸の内を曝け出すようになり、そのディスコミュニケーションが解消されていく。
「思いは口に出さないと伝わらない」という、当たり前のこと(しかし見落としがちなこと)を愚直なまでに観客に伝える。この素直さにとても好感が持てる作品だった。

ドラマのセリフは大部分がフランス語なのだが、ここもまた面白いところ。
アメリカ人であるエリオットやその娘ジュリーにとってフランス語は第二言語。エリオットの恋人マヤもおそらくはポーランドあたりの出身のようなのでやはりフランス語は母国語ではない。アラブ系の登場人物も多いが、彼らにとってもフランス語は母国語ではないのである。
すなわち、本作でのセリフのやり取りはほとんどが第二言語によるものであり、そのことがディスコミュニケーションを加速させている訳だが、最終的にはその言語の壁を乗り越え、ジ・エディの仲間たちは一つになっていく。
これはまさに移民により多民族化したフランスならではの描き方であり、それが物語のテーマと直結しているという点が非常に興味深く自分の目に映った。

現代フランスを読み解く社会的なドラマだが、移民問題や人種問題を前面に押し出してはいない。
基本的にはめちゃくちゃオシャレなジャズドラマであり、毎話かなりがっつりとライブシーンが描かれる。難しいことを考えず、このジャズの波に身体を委ねるのも本作の真っ当な楽しみ方の一つである。

調べてみて驚いたのだが、本作のバンドメンバーは本職のミュージシャンであり役者ではないんだそう。
ベーシストのジュードやドラマーのカタリナはエピソードの主役を張るほどの重要人物だったのに、全く素人臭さはなく、普通に本職の役者さんだと思って観ていた。
特にカタリナさんは『ドラゴン・タトゥーの女』のルーニー・マーラみたいで超カッコ良い✨
当て振りではなくナマで演奏しているからこそ、このドラマの音楽には臨場感が備わっているのだろう。

とまぁここまで結構ベタ褒めしているんだけど、正直ドラマとして面白いとは思えない。
重厚な人間模様が展開されるドラマなのだが、その分娯楽要素は薄い。特にチャゼルが手掛けた1&2話は本当に退屈で、その上1話あたりの尺も長いので本当に観ていて辛かった💦
ミステリー要素やクライム要素が強まる中盤からはそこそこ楽しめたのだけれど、結局それらはおざなりな感じで放り出されてしまった。
第2シーズンに続く、ということなのかも知れないが、続編製作の知らせは杳としている。…というか多分これ打ち切りだよね😅

そんな訳で、雰囲気はとっても良いのだが正直つまらないドラマである。まぁチャゼルだからねぇ。
尻切れトンボな終わり方だし、続編の製作が決定!みたいなことにならない限りは別に観なくても良いかも。
リアルなパリの姿を見てみたい、という方にはおすすめ、かな?
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