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ホワイトラインのシネマノのレビュー・感想・評価

ホワイトライン(2020年製作のドラマ)
3.5
「失われた2020の夏、その快楽の幻の代償と喪失のドラマ」

ネトフリの大人気シリーズ【ペーパー・ハウス】(未見)のショーランナーを務めるアレックス・ピナの新作という期待をもって観たのだが。
うーん、なかなかに完走するまでに厳しい内容だったことは否めない。
イビサ島を舞台にした過激なサスペンスという題材はウケも良さそうだが、本当にそれだけといった印象。

まず、ドラマの導入自体そのものにあまり魅力がない。
DJであった兄がイビサ島に行ってから数十年後に遺棄死体となって発見される。
兄を慕い続けた妹は、事件の真相を暴くためにイビサ島へと一人向かう。

このあらすじだけで、なんとなく結末までのストーリーラインが想像できてしまうもの。
百歩譲ってフーダニットやホワイダニットをめぐるミステリーではなく、サスペンスだったとしても…
あまりにも観る側に引力のない展開と、主人公を含む登場キャラクターたちに終始満足ゆかず。
若年層向けのコンテンツが成功の鍵なのは間違いなく、制作側もそれを意識して作ったのだろうから、
まんまとストリーミングサービスの悪しき慣例にのせられてしまったと言うべきか。

しかし、これはあくまで個人的な感想であって、
過激描写やイビサ島を舞台にした甘美な演出、そこに今はその勢いを失いつつあるクラブカルチャーや、コロナによって失われたはずのドラッグパーティーが展開されるドラマは、
幻のままに過ぎゆくであろう2020のイビサの夏をここに再現してくれている。
クラブミュージックやEDMパーティーに熱狂していた時期を思い起こさせてくれる場面も多々。
レイブやドリル、ハウスなどよりもトラップミュージックに傾倒する若年層にとってもかえって新鮮に映るのかもしれない。

いまや幻となりつつある快楽の夏
いつの時代にもそこにつきまとってきた、あらゆる自由と喪失
これらを美しいイビサを舞台にして過激に描く本作は、まさに現代に起こりうるサマー・オブ・ラブ。
今後さらに上質なドラマでもってこうした作品が出てくるならば、ためらいなくビンジします。
本作は物足りなさが随所に残り、いっそ映画の尺で描いたら良かったのではないか、とも。
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