ワンコ

おかえりモネのワンコのレビュー・感想・評価

おかえりモネ(2021年製作のドラマ)
5.0
【「おかえりモネ」という群像劇と、当事者と、周りの人々と、キレイごとと、信じて続けることと】

「山の神様、いや、海の神様でも空の神様でもいい。どうかあの子に、よい未来を」

これは、登米を旅立つモネに対するサヤカからの祈りの言葉だが、実は、この作品からの、全ての人々に向けたメッセージなのだとも思う。

森に残ったサヤカの足元にはヒバの新芽、空には彩雲が七色の光りをたたえていた。

この「おかえりモネ」は、モネをヒロインとしながらも、モネの家族、友人、登米、東京、気仙沼でモネに関わる人々の群像劇だ。

そして、もうひとつ。

登場する人物が、それぞれ、当事者であり、周りの人々に時には反発したり、軋轢を感じたりしながらも、理解し、寄り添う姿が描かれる。

実は、こんな事をハッと思ったのは、気仙沼でボランティアで東京から来ていた水野が、失意のうちに東京に戻ろうとしていた場面だった。短い出演だったが、実は重い場面だった。

いくら心を砕いて接しようとしても、寄り添おうとしても、何かアイデアを提示しようとしても、当事者にも受け入れようとする気持ちは必要なのだ。
だが、決して簡単ではない。

そして、それには程度の差こそあれ、受け入れるのには時間はかかることが多いのだと。

津波を見てなかったモネと父親の耕治。この2人は象徴的だったと思う。
彼らは当事者ではなかったのだ。

登米、東京を経て気仙沼に帰るモネ。
家業を継ごうとする耕治。

登米や東京は対比として、モネを受け入れる場所になった。
耕治の銀行員としての安定したポジションも似たようなものだろう。

林業不振に不安を抱えるサヤカや、森林組合の人々はモネを受け入れた。
間伐材を利用した学習机の製作や、ヒバの巨木の伐採に協力したり、心を砕く川久保や佐々木をはじめ、林業に携わる人々は助け合っているのだ。

過去に大きな後悔を抱える菅波もモネを支えた。

ジャズ喫茶のマスター田中を支え、励まし、前を向かせようとするモネ、菅波、林業関係者。

気象予報は人々の助けになるのではないかと気づくモネ。
モネを送り出すサヤカ。

東京の朝岡も大きな失意を経験していたし、それは、莉子も、TV局の高村も同様だ。
つねに新たな指針を見出そうとする朝岡。
莉子の将来を見据え、莉子にチャンスを探す高村。

汐見湯の菜津は祖父母と共に宇多川を支え、モネたちを見守る。
車椅子ランナーの鮫島は、大きなプレッシャーのなかで、ストレスを抱えながら、モネたちを受け入れ、全力で期待に応えようとする。

菅波は、様々なことに必死で取り組むモネを見ながら、自分自身も変わろうとし、ホルン奏者と再会で、今後の自分の道筋も見出すことになる、

震災の傷を抱えながら、それでもなんとか生きていこうと格闘する気仙沼の人々。

震災FMをコミュニティFMに発展させた、高橋や地域の人たち。

再び気仙沼を訪れる水野。再会から見えてくるのもあるはずだ。

大切な生徒を残して、家族の元に駆けつけることを考てしまった亜哉子。
それは、悪い事なのか。
あかりとの再会は、何を意味するのか。

動かない祖母を一人残して津波から逃げようとしたみーちゃん。
それは、悪い事なのか。

長い間、美波の死を受け入れられない新治。
それは、悪い事なのか。

率直な気持ちを話してみて、改めて動き出すものもある。
そうした気持ちを受け入れるモネや、そして、モネの家族や友人たち。
皆、ずっとそうしてやって来たのだ。

亮の無事を祈り、亮の未来を願い、美波の死を受け入れる新治。
父の回復を願う亮。

きっかけも願いも様々だが、皆、よい未来を祈っているのだ。

寺を継ぐ決意をした三生。
東京に残るすーちゃん。注目されてもスタンスの変わらないマモルは、すーちゃんの支えだろう。この物語は、すーちゃんに何度となく救われている気がする。

「漁師とか船とか、海とか、ずっと縛られて生きてきた。」
理解し、みーちゃんを支えようとするモネ。
乗り越える亮とみーちゃん。
乗り越える新治と亮。

「しぶといんだよ」
何度となく立ち上がった龍巳。
乗り越えようとする耕治と龍巳。

次第に、気象予報の大切さを理解する太田をはじめとした漁業関係者たち。
新しい知識や力は必要なのだ。

キレイゴトは、理想だ。
でも、次第に、人々の力になるのだ。
信じて続けることだ。

これがモネの物語だ。

最後に、どうしても付け加えたいのが、モネの友人・悠人と、東京の野坂だ。
エンパシーを感じながらも、ぶれず、しっかりした立ち位置で、周りと接していく。

自分自身の過去を振り返ってみて、こういう人たちに、助けられたことが、実は多かったと思う。
「おかえりモネ」は、所謂、派手な成功者を主人公とせず、多くの人々にもフォーカスを当てた物語で、その中でも実は象徴的な登場人物だったと思う。

エンディングは、現在の僕たちより、ちょっとだけ先の、コロナ禍を克服した未来だ。

「山の神様、いや、海の神様でも空の神様でもいい。どうかあの子(”人々”)に、よい未来を」
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