半兵衛

必殺からくり人の半兵衛のレビュー・感想・評価

必殺からくり人(1976年製作のドラマ)
4.1
NHKで放送された自由な作風で知られる時代劇「天下御免」は脚本家・早坂暁の代表作なのだが、残念なことに映像がほとんど残っておらず(主演の山口崇氏が録画した1話ぐらいしかないとか)、残された脚本でイメージするしかない。

しかしそうした「天下御免」の作風をソフトや配信で楽しめる作品がこの「必殺からくり人」である。必殺シリーズでは「仕掛人」で脚本を担当したり、オープニングのナレーションを作ったりと関わりの深かった早坂暁が満を持して参加したからくり人は、他の必殺とは一線を画す作品に仕上がった。

まずその特徴とは時代設定を天保年間(1831年から1845年)に決めているところである、必殺シリーズは大体時代設定は決めているものの、それに縛られることなくゆるゆるな設定で話が作られている。しかし「からくり人」は天保に起きた出来事や風俗を元に脚本が描かれており、例えば初回は天保三年に起きた鼠小僧の処刑を取り上げたり、12話では天保十年に起きた蛮社の獄を扱っている。

そしてもう一つの特徴は天保年間と放送当時の現代(1976年の日本)をリンクさせて、視聴者に感情移入しやすくさせていることである。実際天保年間は江戸時代の文化の熟欄期と言える時代で、政治的にも安定しており放送当時のオイルショックが終わり平和な時期になっていた日本とリンクする。実際天保の次の弘化の頃になるとそれまで時々起きていた外国の船が食糧の補給を求め日本を訪れたり、外国の船が日本の港に勝手に来て測量をしたりといった問題が頻発し、また内部では老中・阿部正弘が外交問題で「何が起きても相手にしない」日和見政策に固持する幕府の家臣に愛想が尽き、薩摩の島津斉彬や水戸の徳川斉昭などといった中央から遠ざけられていた革新的な人物と手を組んで幕府を改革しようとしたりと平和な時代に波風がたちはじめている。結局それが1853年のペリー来航で一気に火がつき、平和な江戸時代は終わり幕府崩壊のきっかけになってしまう。

こうした天保=今の日本をよりリンクさせるため実施したのが、話の中に今の日本の風景を登場させるという大胆な演出である。例えば緒形拳扮する時次郎が銀座(放送当時の)に登場したり、山田五十鈴がごぜ(盲目の芸人)についてのインタビューを受けたりなど。こうしたやり方は「天下御免」でも行われており(元はゴダールや大島渚だけど)、今見ても斬新。

「からくり人」は登場人物も他とは違い、からくり人のメンバーはかつてやむにやまれぬ事情で罪を犯して八丈島に島流しにあっており、そこから脱走して身分を変えて生きている設定になっている。時代の落伍者でもある彼らは時代に取り残された弱者の涙に誰よりも共感し、彼らを踏みにじる権力者に怒りを見せる。そのためからくり人はしばしば金銭なしで闇の仕事を引き受けることが多い。金銭をもらって人を殺す必殺シリーズでは偽善同然の行為だが(その割には結構ただで悪人を殺すことが多い)、身を潜めつつ表社会を生きる彼らだからこそ見ている人も納得できるのだ。

話の内容も早坂暁の巧みな筆致(毎回書いているわけではないが)と必殺常連監督の演出、必殺スタッフの一流の技術、キャストの好演によって最高級の娯楽作品に仕上がっている。中村主水が出ていないからと食わず嫌いをしないで見てほしい。ちなみに私のおすすめは「佐土からお中元をどうぞ」である、何しろこの回は悪党を殺すシーンが無く、いかにからくり人チームが佐渡から金を盗むかという難仕事を達成するかという物語をテンポよく見せていて、しかも後味は爽快。
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