Fitzcarraldo

ある家族の肖像/アイ・ノウ・ディス・マッチ・イズ・トゥルーのFitzcarraldoのレビュー・感想・評価

5.0
超優良コンテンツドラマを連発している有料ケーブルテレビHBO製作による全6話のリミテッドシリーズ。

WALLY LAMBの同名小説"I Know This Much Is True"を原作に、脚色・監督を務めたのはデレク・シアンフランス。

Written for Television and Director by
DEREK CIANFRANCE


もともとは1998年に20世紀FOXが原作の映画化権を手に入れ、ジョナサン・デミが監督をという話が持ち上がったそうな…これはこれで興味はあったが、やはり本作にはデレク・シアンフランスが最適解だろう。

その後に二転三転して映画化権の権利が消滅したところ、原作者のウォーリー・ラムは映画化よりもドラマ化の方が適していると考え、かねてよりファンであったマーク・ラファロに原作本を送り、双子の役を演じてはどうかと提案したらしい。

これをデレク・シアンフランスに話を持ちかけるマーク・ラファロのプロデューサーとしてのセンスも抜群である。

そして画面のルックがまた最高である。

最近ほとんど見なくなった、ざらざらとした質感…明らかに今どきの画とは違う。
フィルムっぽいなぁ…と思って見ていたが、まさかの35ミリだった!

この潤沢な資金力は羨ましいが、単にカッコつけでフィルムにしてるわけではなく、きちんとフィルムの良さを理解した上で存分に引き出している気がする。

なんだろう…画面から発する雰囲気からして違う。いや〜素晴らしい。

カメラとレンズ
Arricam LT, Cooke S4, Canon K35 and Angenieux Optimo Lenses

35 mm (Kodak Vision3 500T 5219)


いやぁホントに久しぶりにいいものを見て心躍っている。原作は未読なので、どこをどう脚色してるかわからないのだが、とにかく一話一話の区切りもよくできすぎてるし、最終話の終わり方なんて…美しすぎて…物語として完璧なのでは?

こんな物語が書けたら…最高だろうな。


このドラマに関わった人みんな最高である。

日本のドラマとはマリアナ海溝ほどの溝と差がある。あと100年かけても、この差は埋まらない気がする。

なんで日本のドラマは幼稚なんだろう…
本作の大人っぽさったらない。

あぁ神よ…私の右手も捧げるべきか…。



#1

年をまたいで生まれた双子。
兄トーマスは1950年の年末。
7分後?だったか…年を越して生まれた弟のドミニク。

年をまたがなかったら、何の話題にもならなかったとナレーション。

確かにそうかもしれない。
一卵性の双子で、生まれた年が違うのは、少し面白い気がするし、ニュースになりやすそう。ワイドショーの格好のネタだろう…。


いきなり自分の右手をちょん切るトーマス。冒頭からなんという展開…。


おぉぉぉジュリエット・ルイス!

"Natural Born Killers"(1994)
"From Dusk Till Dawn"(1996)
以来かな?お目にかかったのは…
久しぶりに見ると、老けたなぁ。仕方ないんだけど…

イタリア語専攻の大学院生のJuliette Lewis演じるネドラ。



◯ドミニクの部屋

Rob Huebel演じる売れない俳優であり、学生時代からの親友であるレオと電話しているドミニク。

自分が出てるCMを見ながら電話で話す。

レオ
「俺は良かったか?」

ドミニク
「ああ、まさに名演だ。ブランドとデ・ニーロを足し、大袈裟にした感じ」

レオ
「CMにシェイクスピアのような演技は要らない」


ドミニク
「謙遜してもお前の名演は光ってる。ブルース・ウィリスも元はバーテンダーだった」

このセリフは本当かどうか分からないが、マーク・ラファロ自身が9年くらいバーテンダーをやりながら売れない役者道を歩んでいたらしい。


ジュリエット・ルイス演じるネドラが、ドミニクの部屋へ急に訪ねてくる。勝手に来ては、部屋に入れろだの、何か飲みたいだの、わがまま放題。

"Knock Knock"(2015)の2人くらい美人が突撃訪問してくれるなら嬉しいが…このジュリエット・ルイスでは…ちょっと説得力がない。

水かビールしかないと答えるドミニク。

ビールをご所望するネドラ。

冷蔵庫から〈Rolling Rock〉のビール瓶を取り出すドミニク。

おぉこのビール名前も瓶もラベルのデザインもカッコイイ!
アメリカのビールのようだが、残念ながら日本で輸入してないのか…

輸入会社やろうかな…これ日本でも売れると思うんだけどな。名前だけで…


しかし超めんどくせぇ女なんですけど…
自分から来といて…誘惑に乗らなかったらセクハラだと訴えるとか喚いてめちゃくちゃなんですけど…

ネドラ
「本当の自分を偽る辛さが分かる?大学組織の中でなんとか自分を保つ、男ばっかり優遇されて!」

そういう境遇なのか…
あなたの辛さもよくわかるが…だからと言って、それはあんまりでは…女性のストレスもありますから。理解してあげないと…



#2

JIM CROCE

"I got a name"

いい選曲だなぁ。

一度、エンジン切って車から降りて、また乗る時に続きから曲が掛かるの好き。現実世界でもよくあるけど、映画とかだと途絶えたままになりがち。


The Alan Parsons Project
"Time"

続いていい選曲だなぁ。


EDDIE KENDRICKS
"date with the rain"


The Mickey Finn
"The Sporting Life"


あれ?捨て曲ないな…
この物語にめちゃくちゃ馴染んだ素晴らしい選曲。


#3

Sam Cooke
"Wade In The Water"


Bill Fay Group
"Hypocrite"


The Cars
"Drive"

ジョイという若い彼女が、今日だけはケンカしたくないから、とチキンを作ったのに…チキンのことなどどうでもいい!とドミニク。

妊娠を告げるジョイ…


ドミニク
「父親は誰だ?」

と、この場に一番相応しくない文言を…

おぉ最悪…

この場に随分とまた爽やかな曲が掛かってること。このセンスの良さ。

The Cars
"Drive"
この曲、知らなかったけど最高!

ドミニク
「父親は俺なのか?」

ジョイ
「なに?なにそれ?…もちろんでしょ、他に誰がいる?…」

ジョイ
「その質問、なによ?」

ドミニク
「ただ…」

チキンの皿を持ち席を立つドミニク。
チキンには手もつけず、流しへ置き、部屋へ入るドミニク。


最悪な男ドミニク…にこの時点では見えるが…このあと謎が解ける。



Kathryn Hahn演じるドミニクの妻デッサ。

生後3週間で突然死をしてしまう我が子。

デッサが子供の死を振り切るために死亡保険金で海外旅行へ。保険金の金を使って旅行など有り得ないとドミニクは残る。

旅行から帰ってきて、久しぶりにセックスする2人。

デッサ
「いったの?」

ドミニク
「ああすまない。久しぶりだったから」

デッサ
「私、怖くて…」

ドミニク
「なにが?」

泣くデッサ。

ドミニク
「大丈夫だよ。(抱きしめる)妊娠なら心配ない。しないよ。俺が、ちゃんとしておいた」

デッサ
「なにそれ?」

ドミニク
「大丈夫だ。君は妊娠しない」

デッサ
「どういうこと?」

ドミニク
「カットした。だから大丈夫」

デッサ
「何を言ってるの?」

ドミニク
「パイプカットした。大丈夫だ」

ドミニクの頬をビンタするデッサ。

デッサ
「私は、また赤ちゃんが欲しかったのに!アホ!また産む決心をするために旅に出たの!」

出て行くデッサ。

こんな行き違い…
良かれと思ってやったことなんだろうけど…それを相談もなしにやってしまうのも…ん〜。しかしすごい脚本だな。

あと単純に、パイプカットって包茎手術のことだとずっと思ってたんだけど、違うの?精子が出ないようにするってことなの?

パイプカットとは…精管を縛ることにより睾丸から精子が精液の中に送り出されるのを防ぐ、男性が受ける避妊手術。

基本的にパイプカットは永久避妊法ですが、術後の精液検査で精子が認められなくなったとしても2000分の1の確率で自然妊娠の可能性があると報告されています。

やべぇ知らなかった…どえらい勘違いしていた。恥ずかしい。
三浦瑠麗のように「たいものれい」と言ってしまうところだった。



P.P.Arnold
"The First Cut Is Deepest"



#4

ペンキ塗りがなかなか進まずクレームの電話を受けてばかり。
いよいよやらなくはと、事故の後の身体で無理くり作業を始める。

すると、家主の妻が今日は主人の体調が悪いから作業はやらないでほしいと頼む。

せっかく来たし、車も事故で廃車になってしまったので、構わず、作業を続ける。

2階に登ると…

窓の向こうで家主が口に拳銃を咥える。
そして…自殺。

それを見て驚き、後退りすると階下へ落ちていくドミニク。


入院。

2人部屋。

隣の陽気なジジイの彼女が…
まさかのジュリエット・ルイス!?

ここで出てくるかぁ…
どこかで再登場すると思ってたけど…
ここで彼氏の見舞いに来るとはね。

しかも頼んでいた祖父の翻訳をここでようやく返してくれる。

これで出番終わり。
ほんとちょい役だなぁ。



#6

トーマスの葬式で、養父レイをみんなの前で罵倒するドミニク。参列者たちは気まずくなってみんな帰ってしまう。
洗い物の後片付けを元嫁デッサと並んで2人でするドミニク。

デッサ
「本当の父親じゃないことが、レイは何より悔しいのよ」

ドミニク
「それは絶対にあり得ない」

デッサ
「本当?…彼が本当の父親なら、あなたは許してる」

ドミニク
「それは違う…」

デッサ
「…どうしてなの?」

ドミニク
「なにが?」

デッサ
「みんなを遠ざける。なぜ遠ざけるの?」

ドミニク
「俺たちを見てみろ…呪われてる」

デッサ
「そんなバカな」

ドミニク
「呪われた一家なんだ…それが現実だ。残りは俺がやる」

デッサ
「……彼のようになるわよ」

ドミニク
「彼って?」

ドミニクを見つめるデッサ。

ドミニク
「誰だ?」

この場を去るデッサ。

ドミニク
「誰のことだ?」


祖父の自伝

「唇の裂けた哀れな娘。嫁のもらい手もない。料理や掃除をし、おとなしい。その静けさをもって父親を敬う。シチリア人の血を引く娘は、秘密を守ることができる」

精神科医の先生の前で朗読していたドミニク。カウンセリング中。

ドミニク
「終わりだ。これが自伝の締めくくり」

Dr.パテル
「可能性はあるけど、ほぼあり得ないわ」

ドミニク
「あり得ない?じいさん本人が書いてる。女は秘密を守ることができるって」

Dr.パテル
「秘密にはいろいろある。プロスペリーナから教わった秘伝のレシピかも。確かにお祖父様は不幸で、見当違いの野心を持ってた。冷酷で利己的とも言える。だからって娘をレイプしたとは言えない。あなたたちの父親になったとも」

ドミニク
「つまり俺は自伝を読む前に戻ったってわけか」

Dr.パテル
「戻った?」

ドミニク
「俺には父親がいない」

Dr.パテル
「こう考えましょう。この自伝は腹立たしいほど要領を得ない物語ではなく、寓話だと考えるの。寓話は教訓を語る。読者は寓話を読み終わった後に学びを得る。そこであなたに聞くわ。この自伝で何を学んだ?」

ドミニク
「呪われてる。そうだろ?こんな不幸続きの一家があるか?そうだろ?俺はすべてを失った。赤ん坊も亡くした。妻も失った。母親も。兄貴も」

Dr.パテル
「お兄さんの死は呪いのせい?」

ドミニク
「あぁ…そうだ。ちがうか?」

Dr.パテル
「あなたは、お兄さんを守ろうとしたけど、傷ましい事故が起きた」

ドミニク
「事故だって?」

Dr.パテル
「そうよドミニク。防ぐことはできなかった」

ドミニク
「防げた」

Dr.パテル
「その場にいなかったでしょ?」

ドミニク
「理解するのがそんなに難しいか?父親の罪が息子に祟った。因果応報を信じるだろ?俺の場合も因果応報だ!それがなんで分からない?」

Dr.パテル
「傷みや失敗や希望の原因を外側に求めるのは簡単よ。自らの中に原因を求め、行動の責任を取るよりもね」

ドミニク
「本気か」

Dr.パテル
「だって実際そうでしょ⁈運や神や遺伝。想像を絶する罪や魔法が今の自分をつくったと考えた方が楽だもの」

ドミニク
「何より楽?」

Dr.パテル
「自分を追求するよりもよ。人間というものは複雑なの。怒りに満ちて優しい、強くて弱い、怯えてて悲しい。誰かを失っても前に進むかことを恐れない。お祖父様は意図的でないにしろ貴重なものを残した。彼の失敗の寓話をね。彼は人格形成を誤り、自らの選択を誤った。人には選択の自由があると、あなたは信じるでしょ?違う?信じる?」

ドミニク
「どう思う?」

Dr.パテル
「信じるなら、彼の教訓を生かすべきよ。学ばなきゃ。"父親がいない"と言ったわね」

ドミニク
「本当のことだ」

Dr.パテル
「そう?」

ドミニク
「ああ」

Dr.パテル
「同意できない。あなたには間違いなく父親がいる。卵子と精子を超えて考えればね。生物学的な父親は見つからないかもしれない。でも誰かの成長を見守る歳上の男性を"父親"と定義するならば…あなたの父親は生きてる。親として不足はあるにせよ、レイはあなたの人生の傍らに常にいた。お葬式以来、会った?」

ドミニク
「…いや」

Dr.パテル
「なんとかしなきゃね」
Fitzcarraldo

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