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アメリカン・クライム・ストーリー / O・J・シンプソン事件のGreenTのレビュー・感想・評価

4.0
これめちゃくちゃ面白いです。

OJ・シンプソンはすん〜〜〜〜ごい有名なフットボール選手で、70年代に活躍し、引退後はいくつか映画にも出たりして、愛されキャラだった人なので、この人が別れた奥さんのニコールを惨殺したってのは当時すごい衝撃的な事件だったのですが、とにかく大騒ぎな事件だったので、良く考えると詳細がわからなかったのですが、これを観ると良くわかります。

当時の事件を知らなくても、裁判がどういう風に進んでいくものなのかとか、あと、背景になるアメリカ社会が「そうか!こんな感じだったのか!」って言うのが今でも変わらないので「なるほど〜」と思わされる。

事件現場は惨殺で、相当恨みがこもっている。こういう殺しは、知り合い、特に痴情のもつれに間違いない。しかも、ニコールの恋人・ロンも刺殺されている。

ニコールはOJに暴力を振るわれ、何度も警察を呼んでいた過去がある。その上、事件の晩のOJのアリバイはない。OJ、ニコール、ロンの血液がOJの車、ベッドルーム、ソックスなどから見つかっている。

この映画ではOJ・シンプソンって人は、本当に情けない、子供みたいな人に描かれている。めちゃくちゃ有名な「ブロンコ・チェイス」って知ってます?白いフォード・ブロンコって車でOJが逃げたって話。

警察は証拠を固めて、逮捕すると言うんだけど、OJの弁護士が「明日自首させるから」と警察と取引するんですね。お金あって良い弁護士が雇えると、こういうこともできるらしい。

で、諦めて出頭しようね、って説得するんだけど、OJは自殺しようとする。そんなこんな大騒ぎしているうちに、OJはACという黒人の取り巻きの男性に運転させて、白いブロンコで逃げる。

これが、ニュース番組がヘリコプターで「白いブロンコ」を追跡するところが放映されるんだけど、OJは拳銃で自分の頭を撃ち抜くと脅かして、パトカーがブロンコの後を黙って追い続けるみたいな滑稽なことになっている。

もう本当に、この辺は画面に向かって「早く自殺しろ!それか出頭しろ!」って叫んでしまったよ。死ぬ気もないし、殺したことを悪いとも思ってないんだろうなあ。泣いたり反省したり自殺するって言ったりして、とにかくなかったことにしようとしている。つまりダダをこねる子供と一緒なんだよね。その「俺はセレブなんだから許される」的な、無意識に思ってるところがとにかくムカついてくる。

ここら辺、エピソード1から5くらいまではこんな感じで盛り上がります(笑)。とにかく「信じられない」OJの行動の連発で、驚くやら憤慨するやら。

しかしOJの役がキューバ・グッディング・ジュニアってのが解せない。OJってめっちゃ身体デカいでしょ?フットボールの選手だもん。キューバちっちゃい(笑)。

OJを追求する地方検事、マーシャ・クラーク役のサラ・ポールソンはすっごい良かったです。この人、駄作にも色々出るけど、やっぱりいい役者さんなんだなあと思う。

こんな証拠がテンコ盛りの事件もそうそうないので、検察側は立件は確実と自信たっぷりなのだが、事件が起こったのが1994年、ロドニー・キング事件(黒人が白人警官にリンチされた事件)の2年後なんだよね。

その上、ニコールとロンの殺害現場の調査にあたって証拠を見つけたマーク・ファーマンという刑事が人種差別主義者で、黒人を取調室でリンチしたって話も出てくる。これが、小山田圭吾並にインタビューで豪語しているテープで出てきちゃう。

しかもOJは、黒人たちのスターじゃないですか。LAPDの黒人差別を受けてきた黒人たちは、「OJはLAPDにハメられた!」と信じてしまう。

ここでも、黒人と言うだけで車運転していると止められるって逸話がまた出てくる。本当にこの話ってすんごい昔からあったんだなあ、と考えさせられる。

あと、弁護士側は、マーク・ファーマンが人種差別主義者だと立証するために、「Nワードを言ったことがあるか、ないか」を立証しようとする。Nワードは、タランティーノの映画で使いすぎ!とスパイク・リーが批判したりしているけど、タランティーノは「事実こういう使い方をされているから」と説明していて、私も「事実を隠すことはないじゃないか」と思っていたけど、黒人の人たちとってNワードを聞いて気分悪くなるのって、日本人が「ジャップ」と聞いて感じる差別感よりずーっと根深いんだなという感じがわかった。

こういう気持ちもわからないでもないから話がややこしくなる。それに、テンコ盛りの証拠があっても、それが「黒人差別的な刑事によって植え付けられた」となると信憑性が怪しくなる。

なんだけど、ここでもどんでん返しがある。OJは、自分が「黒人だ」って思われたくないのだ!これがすごい。OJはお金を稼げるようになると、カリフォルニアでもセレブばかりが住むブレントウッドという閑静な住宅街に住み、白人としか付き合わなくなる。付き合う女はニコールを含めいつも白人だし、親友のロバート・カーダシアン(デヴィッド・シュワイマー)も白人、弁護士のロバート・シャピロ(ジョン・トラボルタ)も白人。

で、シャピロはOJは有罪だと思っているので、「黒人の弁護士を雇って、黒人の同情を得て罪をなるたけ軽くしよう」みたいなアプローチで、黒人のために頑張っているジョニー・コクランって弁護士を雇おう、って言うんだけど、OJは「俺は黒人の象徴みたいになりたくない」って感じなんだよね。

しかし、このOJの気持ちもわかる。OJの育った地域は貧しくて、有名になり金持ちになるとタカってくるヤツばかり。治安も悪いから、盗みに入ってくるヤツもいる。小さいときから貧しかったから、閑静な住宅街に家を持って、安心して生活したかった。

「俺は黒人じゃない!OJだ!」って言うシーンがあって、OJは自分がすでに白人も黒人も超えた、頑張って有名になって金持ちになって、差別されない地位にいるんだ、と思っていたのに、事件になったら人種問題にされる・・・・。気持ちはわかる。

まあこんな感じでどんどん社会問題化され、ゴシップ化され、殺されたニコールとロンを気の毒なんて思う人はいない。特にロンの方は、殺されたことさえ忘れ去られそう。

惨殺なんですよ!ニコールはクビが切り落とされそうなくらいナイフで切られていた。ロンは顔やクビなど何か所も刺されている。他に容疑者と思われる人は1人もいない。

刑事が人種差別主義者だとしても、証拠はでっち上げられるような簡単なものでもない。しかもブロンコで逃走したときに、OJはパスポートや変装用のカツラなんかも持ってたってことは、やっぱやってるとしか思えない。

デヴィッド・リンチは『ロスト・ハイウェイ』はこのOJの事件に衝撃を受けたことが少なからずインスピレーションになったと言っている。そんな風に、残忍な殺しのことが印象に残っている人もいるけど、一般大衆はOJの逃走、人種差別問題、「グローブが小さすぎた」、長引く裁判で陪審員たちがボイコットをしたなどの、ゴシップ的なことしか憶えてないんじゃないかと思う。

あ!忘れてた。検事のマーシャ・クラークに対する女性差別もすごい。元夫があることないことメディアに喋ったり、裸の写真を雑誌で公開したり、髪型がひどい、服装がダサいと叩かれる。

こういうことが昔はあったんだよね。女性も社会進出できるようにはなったけど、こういう扱いを受ける。

とにかくこの事件を取り巻く社会問題がすごい面白い。でも『ビリー・リンの永遠の一日』でも書きましたが、やはり実話のドラマ化って言うのは、「人の不幸」をエンタメ化しているんだなあと思いましたよ。今回特に感じたのは、何度も言うようだけど、あれだけひどい目にあって殺された2人のことはほとんど語られない。

それはドラマ化以前に、裁判自体がショーになってしまっている。

しかも、この件でカーダシアン家は有名になる。この事件に関わった人はみんなこの事件で有名になってコメンテーターとかして金持ちになっている。人種差別主義者のレッテルをはられたマーク・ファーマンでさえ。

で、こういう現象が起きるのは、私みたいに興味を持って観る人がいるからなんだよなあ。でもこういう話が人間や世間を良く描いているので、やっぱり興味湧くんですよね・・・。

因みに実在の関係者たちはそれぞれ言いたいことはあるみたいなので、「これが事件の全貌!」と決めつけず、「事件に対する数ある解釈の一つ」という見方をすることだけは忘れないようにしようと思いました。

追記:私、なぜかドラマの方は、コメントを書く機能がないので、こちらでコメント返しさせていただきます。

オレオレさん、
>全ては状況証拠で決定打にはならないのか
違うんですよ!証拠はがっつりあるんですけど、陪審員が黒人が多かったんですよ。この後、ロンってニコールのボーイフレンドの親族が起こした民事裁判では、OJは有罪になってるんです。その上、FOXの2006年だったかな?のOJのインタビューで、「もし、自分が犯人だったら・・・・」って「仮説」を語っているんですけど、実質どうやって殺したかを語ってるんです!映画の中でも、「If I did It って言う本を出す」って言って、家族にドン引きされているシーンがあるんですよ。

悲しいのは、警察の暴力にさらされていた黒人たちは、OJが無罪になることが、黒人が警察に仕返しした!黒人の権利が認められた!みたいに受け取っているけど、オレオレさんがおっしゃる通り、OJも金持ちだったから逃れられただけという、逆にこれは黒人の人たちのメリットに全くなってないんですよ。トランプもそうですよね。労働者階級の白人たちがすごい支持しているけど、トランプは大企業の金持ちのことしか考えていない。こういうのに真面目に働いている一般市民が騙されているのが本当に腹が立つけど、同時にメディア・リテラシーを持つことは大事だなとつくづく思わされます。
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