ブタブタ

ラヴクラフトカントリー 恐怖の旅路のブタブタのレビュー・感想・評価

4.0
ジョーダン・ピール✖️JJエイブラムスによるクトゥルフ神話を題材とした小説『ラヴクラフト・カントリー』をドラマ化。
クトゥルフ神話の創始者HPラヴクラフトは人種差別主義者である事はファンの間では既に有名である。
『男がつらいよ』の冒頭、アバンタイトルで毎回必ずやる寅さんが見る夢みたいな、実はバスで寝てる主人公の夢である、いきなり始まる宇宙戦争、之は明らかにバローズの映画化(大駄作『ジョン・カーター』)もされた『火星シリーズ』を再現してて、そしてその作者バローズも人種差別主義者である。

ついでに本作について詳しい解説をしてくれてる町田智浩もパワハラ・セクハラ女性差別主義者のクズである事が一連の雑誌・映画秘宝騒動により明らかになった。
図らずも主人公アティカスが冒頭で語る「作品と作者の人間性は別個と考える」を自分も一連の映画秘宝編集部、編集長、ライター等はホモソーシャル集団の女性差別主義者共であり長年愛読した雑誌・映画秘宝は其れを作る人間達とは別個の物としてこれからも応援し愛読し続けるのか?という問題を突きつけられる事となった。
自分は「作者はクズでも作品は素晴らしい」と簡単に切り替える事は無理であり、少なくともラヴクラフトの様に100年以上前の作家ならいざ知らず現在進行形でセクハラ・パワハラを行っている人間は例えどんなに素晴らしい作品を創作したり、他の雑誌では取り上げないボンクラ映画の記事が唯一載っている雑誌であった映画秘宝の編集部と言えど許す事は出来ない、との結論に至り長年愛読した映画秘宝及び役に立ち勉強にもなる数々の映画評論や解説をしてくれた町山智浩とは決別する事と相成りました。
さよなら町田智浩さよなら映画秘宝。

全てを通した一本の作品というよりも基本1話が独立した話しで、その設定や世界観を使って違うテーマのドラマを描いている。
なのでSFホラー大河ドラマみたいな感じで期待して見るとやや違和感がある。
やっぱりドラマ版『ウォッチメン』がちょっとスゴすぎたので比べられちゃうきらいはある。
1950年代アメリカ南部、奴隷制に代わる様な人種差別が合法化された「ジム・クロウ法」による白人の恐怖とラヴクラフトの世界からやって来た怪物達、そして謎の土地アーダムや魔術や秘密結社、正にクトゥルフ神話の世界の恐怖を黒人の視点から描く。
SF・ホラーでありアメリカ近代史、人種差別とそれに纏わる実際に起きた事件の数々にクトゥルフ神話を絡め更に『ルーツ』の様な黒人の一族の家族の年代記でもある。

とにかく1話辺りの情報量が多い。
メインキャラ達が出会う人物がアメリカ近代史に名を残す、人種差別と戦った重要人物だったり、流れる曲やポップカルチャーといった文化、其れが大量に何の説明もなくどんどん流れて話が進んでいくので一回見ただけでは到底全ては理解出来ない。
『アップルシード』描いてた頃の士郎正宗の漫画みたいな感じ。
ある程度話しの面白さみたいな物は犠牲にして迄とにかくやりたい事見せたい事を盛り込んでる様なドラマ。
故に一話が一番面白かった。
後半になるとどんどんカオスになって行く。

ドラマ版『ウォッチメン』でも物語の重要な核心事となるアメリカの負の歴史、人種差別による大量虐殺と街の焼き討ち「タルサ」がクライマックスとなる。
1921年の白人による黒人虐殺。
炎に包まれる街と其れに被さり朗読される詩は解説によると1995年に発表された作家で活動家でもあるソニア・サンチェスの詩「Catch the Fire」で訳詞を読むと、
「炎で命を焼くのではなく、命の炎を燃やしそれを繋いでいく」
みたいな内容。
奴隷制、ジム・クロウ法、そしてタルサ虐殺から現在迄続く人種差別、白人の暴力とそれに対するBLM運動に至る迄、アメリカの黒人の歴史そのものにクトゥルフ神話をリミックスして音楽とポップカルチャーにのせて叙事詩的に展開するドラマ。

今現実でもコロナによるパンデミックがまるで人類に対する呪いの様に広がっており、インタビューでレティーシャ役のジャーニー・スモレットは人種差別問題を新型コロナと並びもう一つアメリカがいま打ち勝たなければいけない”パンデミック”だと強く主張している。

『ウォッチメン』の作者アラン・ムーアはクトゥルフ神話を題材にした『ネオ・ノミコン』というコミックも書いている。
アメリカ裏面史にクトゥルフ神話が絡むホラー版のウォッチメンとも言える内容らしく2014年に邦訳発売の予定だったのが何故か突然中止になり今日に至る。

ラストはこれで完結ともシーズン2に続くとも思える。
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