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真夜中のミサのpenのネタバレレビュー・内容・結末

真夜中のミサ(2021年製作のドラマ)
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このレビューはネタバレを含みます

自分があの島の一員になることはない、特に最終盤の夜に紛れて腹を満たす為に走り回るような、欲望に身を任せ暴力を行使する人間になることはないと言い切れるだろうか……と考えていた。
「普通に考えれば分かること」の"普通"とはそれを言った当人にとっての普通であり、真実でもある。何が真実で嘘なのか、それは祝福なのか呪いなのか、それを判断する価値観はひとりひとり誰もが違う。そしてそれが脆弱であればあるほど、強い個を持った人間によって自分の運命が左右されてしまう。
真実を見極める為の異なる価値観を持つ者同士の衝突、すれ違いによって、あのような結末に向かって転がり落ちていく島の運命は、心理的な恐怖感を抱いた。夜の街を歌と共に練り歩く灯火の恐ろしさに震える。

一方で、異なる価値観を持っている者同士だからこそそれらを互いに提示し、確かめ合い、交流を重ねて絆を深めていくことも出来る。その希望も感じて、4〜5話の静かな時間の中で育まれる関係に温かさを感じた。
価値観を作り上げる宗教への信仰は決して悪いことではなく、それを手段にして自らの解釈とそれ以外の2つに分け、後者を排除しようとする心理がむしろ悪いのかもしれない。

最終回の虚無感が蔓延するような夜の霧、その後に訪れる風景の美しさにはしばし呆然としてしまった。と同時に、これはマイク・フラナガン監督にとって最もパーソナルな作品ではないかとも感じた(実際インタビューを読んだらそのようだった)。
ヒルハウス、ブライマナー(そして映画はドクター・スリープ)を経てフラナガン監督が見せた風景に心を奪われたものの、力強く奨めるよりも自分の中で噛み締めたいと感じられるドラマシリーズだった。とはいえ見る人が増えないと監督の次回作が見られないから困るのだが(もう決まってるようだが)。

それにしても今回のモチーフや"天使"、そして7話のゾンビ映画を少し捻ったような展開でこんなに哀しい気持ちになるとは。
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