なべ

クイーンズ・ギャンビットのなべのレビュー・感想・評価

クイーンズ・ギャンビット(2020年製作のドラマ)
4.8
 韓国映画は好きだけどドラマの方はそれほどでもなくて、せいぜい“ながら見”するくらい。決してのめり込むことはなかったのに、ひょんなことからうっかり観始めてしまい、梨泰院クラス、愛の不時着と連続で視聴。睡眠不足が続いてた。寝不足になるほどおもしろいならレビューすりゃいいじゃんて思うでしょ? でもなんか真剣に評価するのがめんどくさくて…。そんな時にめぐり合ったのがクイーンズ・ギャンビットですよ、あなた!
 1話目で幼いベスに魅せられ、高校生となった彼女の快進撃に心酔。あれだけどハマりしてた韓国ドラマが急に色褪せちゃったw
 だってストーリー、語り口、演出、美術、どれをとっても韓国のドラマとはレベルが違うんだもの。いや、志が違うのか。いいとは聞いていたけど、これほどとは。前から好きだったけど、すっかりアーニャ・テイラー=ジョイの虜になってしまった。
 あの複雑な孤高キャラに血を通わせ、愛すべき女性に仕上げたアーニャはすごい! ベスの脆さ、危うさをあんな顔で演じられたら、そりゃ好きになるさ。気づけば、彼女が勝てば喜び、負けると悔しがるって具合よ。あの独特な顔立ちも愛くるしい表情も、すべてはベスのためだったのかと思うから。まだ観てないネトフリ加入者は今すぐ観て!
 もちろんアーニャの演技だけじゃないよ。ストーリーテリングだってそれはもう見事なんだから。ストイックな話の性質と相まって、無駄のないシンプルな構成が最高。推進力に溢れた展開が気持ちよくて、一度見始めたらもう止まらない!
 各登場人物の描き方も申し分ない。施設の用務員シャイベルさんをはじめ、友人ジョリーン、養母アルマや、チェス仲間のハリー、タウンズ、ベニーなど、それぞれ実在したかのようなリアルな人物造形が見事。人としては不完全だけど、だからこそ魅力的な人々。そんな味のある面々に囲まれて、チートっぽいベスの存在がとても力強く、際立っているのだ。
 最強の世界チャンピオン・ボルゴフの描き方もいい。ソ連=悪って昔のステレオタイプはもはやなく、個人(利己)主義vs全体(利他)主義と、むしろ米国人を揶揄する表現の方が多々あって、これがなかなか新鮮。冷戦時代を描けばとにかく「打倒共産主義!」だった頃から米国も進化してるんだな。
 かつてのチャンピオンの誠実な負けっぷりや、ベスが勝ち進むにつれ盛り上がる民衆の熱狂ぶりなど、ベスだから見える“怖そうに見えるけど本質は違う”よってあたりの景色がやさしいのだ。あほな国務省や思想モンスターなキリスト教保守派との対比があるのでなおさらだ。
 過去の出来事を描いたフィクションながら、今の価値観が貫かれていて、形ばかりのポリコレ作品とは一線を画しているクイーンズ・ギャンビットをぜひご賞味あれ!

 ふー。シンエヴァのレビューも書かなきゃなんだけど、楽しめた割に、書くとモンクの羅列なりそうでなかなか書き出せないでいる。ネタバレせずに書く構想はできているのだが…。
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