カルダモン

クイーンズ・ギャンビットのカルダモンのレビュー・感想・評価

クイーンズ・ギャンビット(2020年製作のドラマ)
4.5
9歳で孤児となった天才少女ベスが辿る道。ふとしたきっかけで孤児院の地下で用務員さんに教わったチェスは、やがて彼女の人生を表現する道具となり、狂わせるほどの武器となる。

何者をも寄せ付けない強さと何者をも惹きつける魅力という二面性を、アニャ・テイラー=ジョイが見事に際立たせていた。ドラマは途中で飽きてしまうことが多くてついつい映画を優先してしまう私ですが、最後までスルスル観られたのはひとえに彼女の魅力が大きかった故。話運びもスムーズで、味のある登場人物や適度な音楽、そしてなによりアメリカン'60sの美術に目が眩んだ。ファッションやインテリアや街並みにウットリクラクラ(若干やりすぎ感は否めなかったけど)天才少女のサクセスストーリーと背負ったものの重さという話自体に新しさはないけれど、お洒落ドラマにありがちなストーリーの雑さは一切感じなかったです。

このドラマにおける対局シーンは毎回工夫が凝らされていて楽しかった。私などはコマの動かし方を知ってるくらいでルールはまったく詳しくないのだけど、指先の動きやコマの扱い、瞬間的な間など、対局相手によって微妙な変化があるので無言の会話劇を見ているようだった。あるいは格闘技のような緊張感が持続した。

孤児院の地下で用務員のおじさんに習ったチェスは素敵に幸せな時間だったな。階段を四段飛ばしで駆け上っていくような人生でも心の奥底にちゃんと残っている。アメリカ代表として乗り込んだソ連の大会でさえ、チェスは仮想敵国ではなく対話だった。車を降り、まるで白いポーン♟️のような姿で散歩するベスが街角で指すチェスは、何も背負わずとてもナチュラル。場所も相手も選ばない、雑談のように始まるチェスの時間。
海外の街角にはチェスのテーブルがあったりして、なんだかそれだけでいろんな人間ドラマが見えてくるようで、そんなことを思いながら。



〈ギャンビット〉というのはチェスの戦術のひとつで、いわゆる肉を切らせて骨を断つカウンター的なものだそうです。